ウクライナ軍の反転攻勢でロシア軍の後方施設が被害に遭うケースが増えている(写真は7月5日、ドネツク郊外のロシア軍の燃料貯蔵タンク、写真:AP/アフロ)

プロローグ/ロシア経済は 「油上の楼閣」

 ロシア経済は「油上の楼閣」です。油価が上がると「油上の楼閣経済」は強固となり、油価が下がると弱体化します。

 ただし、ここで一つ注意が必要です。この場合の油価とは、ロシア産原油の主要油種「ウラル原油」(中質・サワー原油)のことです。

 このウラル原油の油価はロシア国家予算案を策定する上で、重要な指標になっています。ロシア国家予算案想定油価とはこのウラル原油の油価であり、他の油種ではありません。

 この点を理解していない日系マスコミ報道が多々ありますので、要注意と言えましょう。

 ご参考までに、「ウラル原油」とは何かと申せば、シベリア産高品質原油(軽質・スウィート原油)と南部ヴォルガ川沿線地域の重質油(重質・サワー原油)のブレンド原油です。

 軽質油と重質油をブレンドする結果、ロシア産原油の代表油種「ウラル原油」は中質・サワー原油になります。

 詳細は省きますが、重質・中質・軽質とはAPI(米国石油協会)で定められた比重、「サワー(酸っぱい)原油」は硫黄分1%以上含む原油、「スウィート(甘い)原油」は硫黄分0.5%以下の原油を指します。

 なお、硫黄分1%以下の原油を総称して「低硫黄原油」と呼ぶ場合もあります。

 欧米の対露経済制裁措置強化により、ロシア産原油の油価は昨年12月5日に上限バレル$60に設定されました。

 ただし、この$60は海上輸送によるFOB(Free on Board=本船渡し)油価であり、パイプライン(PL)輸送により輸出されているロシア産原油は適用外です。

 欧米による対露経済制裁措置に関しては、テレビなどでよく「欧米による対露経済制裁措置は効果少ない」と解説している評論家もいますが、とんでもない間違いです。

 欧米による対露経済制裁措置により、ロシアの代表的油種「ウラル原油」は既存の輸出市場を喪失。

 その結果、ウラル原油はバナナの叩き売り原油となり、ロシア経済に大きな打撃を与えています(後述)。

 北海ブレント(軽質・スウィート原油)とウラル原油の本来の値差はバレル$2~3程度です。

 これは品質差に基づく正常な値差ですが、昨年2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻開始後、一時期は最大バレル$40以上の値差になりました。

 ウラル原油の油価は現在回復基調にあり、バレル$60前後の油価水準まで戻り、北海ブレントとの値差は$20程度まで縮小しました。

 これは下がりすぎた油価が正常値(正常値差)に戻る過程ですが、依然として$20程度の大幅な値差が続いています。

 本稿では、ウラル原油の油価下落がロシア経済にどのような影響を及ぼしているのか定量的に分析・評価して、これが何を意味するのか、プーチン・ロシアは今後どうなるのか占ってみたいと思います。

 結論を先に書きます。

「金の切れ目は縁(戦争)の切れ目」

 ロシア経済は油価に依存しています。ウラル原油の油価下落はロシア軍のウクライナ侵攻の結果です。

 油価に依存するロシア経済は大打撃を受けており、その責任は偏にV.プーチン大統領が負うべきものです。

 すなわち、ロシア国家最大の敵はプーチン大統領その人と言うことになります。