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米政権外交安保チームのキーマン、バーンズCIA長官(写真:ロイター/アフロ)

(文:春名幹男)

いったんは失ったロシアのスパイ網を再構築した米情報機関は、ウクライナ侵攻でも「プリゴジンの乱」でもロシアの機先を制した。中でも、元外交官のバーンズCIA長官の貢献は大きい。

 ロシアの情報機関は、スパイもカウンターインテリジェンス(防諜)の活動も不振が続いている。対照的に、米国の情報機関、特に中央情報局(CIA)の活動はいっそう活発化しているようだ。

 CIAはロシア軍のウクライナ侵攻計画を侵攻開始の約5カ月前、2021年10月に確認していた。さらに今年6月下旬、ロシアのウラジーミル・プーチン政権を揺るがした「プリゴジンの乱」でも、ロシア治安機関より先に、民間軍事会社「ワグネル」の武装行動を察知していたことが『ワシントン・ポスト』の報道で分かった。

 プーチン大統領は2016年の米大統領選挙で、側近だったエフゲニー・プリゴジンに命じて「インターネット・リサーチ・エージェンシー」という組織を作らせ、数百人のスタッフを使って米国人になりすまし、大量のSNSアカウントを開設、候補者だったドナルド・トランプ前大統領を称賛するメッセージなどを送信して、トランプ当選に貢献した。

 トランプ氏は大統領在任中、政権内で繰り返し、米国を北大西洋条約機構(NATO)から脱退させようとした。まさに、プーチン大統領の「米欧分断」という目標達成へあと一歩まで迫っていたのだ。しかし2020年のトランプ再選に失敗、その後ロシア情報機関の活動は活気を失っていったようにも見える。

 反対にCIAは、ロシア側も監視しているSNSサイト「テレグラム」に、ロシア人に対してCIAへの情報提供者になるよう勧めるビデオを投稿した。ウィリアム・バーンズCIA長官は「ウクライナの戦争に対するロシア人の不満がスパイをリクルートする絶好の機会をもたらした」と自信を示している。

 今、米露情報機関の間で何が起きているのだろうか。

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