文部科学省は全国の大学に大きな影響力を持つ(写真:アフロ)

教員は4分の3に削減される一方で、3人だった副学長は8人に、5人だった副理事を8人に増員された。そして役職者に就くのは文部科学省からの出向者やOB——。福岡教育大学で実際に起きた“異変”だ。ここ10年ほど、日本全国の大学で、耳を疑うような事件が頻発している。2000年代以降に行われた国立大学の法人化や国の法改正により、政財界や大学経営者の権力が強化され、教職員や学生の立場は弱くなり続けている。その一端をレポートする。

(*)本稿は『ルポ 大学崩壊』(田中圭太郎、ちくま新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

教員を大幅に減らして、役職者を増やす

「文科省から出向してきている役職者も含め、大学の規模から考えると、他大学よりも多い役職者数になっています。その一方で、法人化前と比べると、大学の常勤教員の数は約3割削減されました。採用が抑制されていることで、教員は多くの業務に疲弊しています」

 こう嘆くのは、国立大学法人福岡教育大学のある教員だ。福岡県宗像市にキャンパスがあり、九州地域の教員養成の拠点となっている福岡教育大学は、1学年に約600人の学生が学ぶ。教科ごとに専門の大学教員を揃えることで、教科ごとに高い専門性を持った教員養成を行う特徴を持っていた。

 ところが、あるときから始まった学長や理事による「改革」によって、カリキュラムは改変され、その特徴は失われつつある。その過程で教科内容を担当する教員が削減され始めた。2004年の法人化前、多いときには220人ほどいた学部と大学院の専任教員は、2022年度は約150人と、4分の3以下に減っている。

 もっとも、専任教員の数が減っているのは、多くの大学でも同じだ。教員は、福岡教育大学の現状を次のように説明する。

「福岡教育大学が他の大学と違うのは、理事や副学長、副理事など、役職者が増えていることです。しかもほとんどの役職者を学長が指名します。その結果、学長を中心とする役職者たちが教員の意向を無視して何でも決めるようになりました。その状態がエスカレートして、教員ばかりか、学生にとっても、さらには地域社会にとっても不利益が生じる状況になっています」

 大学が変質を始めたのは、2010年に寺尾愼一氏が学長に就任してからだったと教員は感じている。2011年から教育組織の改編を強行するとともに、教員の昇任人事が停滞した。2012年には教職員組合と労使交渉をしないまま給与の減額に踏み切ったほか、2013年には退職金の大幅な削減を行った。

 拍車がかかったのは、2013年に実施された学長選考以降だ。学長選考では教職員による意向投票の結果、1位の候補が123票、2位の候補が88票と差が開いたが、学長選考会議は2位だった寺尾氏を再任した。

 すると、学長選考会議は、2015年4月には学長選考における意向投票の廃止を決定した。意向投票がなければ、教職員の意見を反映する場は失われる。しかも、学長選考会議委員の全員を実質的に学長が指名するので、現職の学長の意向が強く反映されることになった。