「社会は女性が母親になるように追い込んでいる」と著者は指摘する(写真:アフロ)

 タイトルを目にしてぎょっとする人は少なくないだろう。実際、本書は2016年にドイツで刊行されて以降、SNSを中心に激しい議論の的となってきた。一方で、幅広い世代の女性の共感を呼び、欧米・アジア各国にて次々と出版され、満を持して今年、日本にもやってきた。

 本書で母親になった後悔を語っているのは、年齢、宗教観、経済状況の異なるイスラエルの23人のユダヤ人女性である。その中には、かつては母親になりたいと願っていたものの、出産後に後悔した女性もいれば、母親になりたいと考えたことがそもそも一度もなかったと語る女性もいる。しかし、子だくさんが当たり前のイスラエルでは、母親にならない女性は疎外されるという厳しい現実がある。

 果たして、こんな嘆きを口にする彼女たちには何か特殊な事情があるのか、それともこれは女性に母親になることを押し付ける社会構造の問題なのか。それは、イスラエルの女性に限った心の叫びなのだろうか──。『母親になって後悔してる』(新潮社)を上梓した、イスラエルの社会学者オルナ・ドーナト氏に話を聞いた。(聞き手:岡島 千尋、和泉 理子、シード・プランニング研究員)

※記事中にオルナ・ドーナトさんの動画インタビューが掲載されています。是非ご覧下さい。

──本書は出産を経験し、母親になったことを後悔していると認識する23人のユダヤ人女性のインタビューを基にしています。執筆のきっかけと経緯を教えて下さい。

オルナ・ドーナト氏(以下、ドーナト):調査を始めたのは2003年です。当初は、親になりたくないイスラエルの男女に関する研究をしていました。

 その研究が終わった時に、「親になりたくない人たち」、とりわけ「母親になりたくない女性たち」という言葉が私の頭から離れませんでした。そこには後悔の念があり、「女性は母親にならなければならない」という政治的な意図にとらわれた感情があると確信したんです。

 そこで、「親になるか、ならないか」と「後悔」の関係について調査を始め、最終的に23人のイスラエル人の女性の研究に焦点を絞りました。

──「子どもを持った一番のメリットは、社会的に大きく逸脱した存在でなくなったこと」と答えた女性の意見がとても印象的でした。彼女はなぜそう思ったのでしょうか。

『母親になって後悔してる』を上梓したオルナ・ドーナト氏 (c)Tami Aven