韓国の文在寅大統領(写真:AP/アフロ)

 自分たちの疑惑を追及するような捜査機関ならば、その権限を根こそぎもぎ取ってしまおう――そんな企てを韓国の政権・与党が進めている。

 退陣を控えた文在寅(ムン・ジェイン)大統領と大統領選挙で敗北した李在明(イ・ジェミョン)氏をめぐる各種疑惑に対する検察捜査を完全に奪い取る「検察庁法改正案」と「刑事訴訟法改正案」が、共に民主党議員全員の連名で国会に提出されたのだ。もちろん野党や世論は反発しているのだが、文在寅政権の最終局面になって韓国国会には戦雲が立ち込めはじめた。

生きるか死ぬかの攻防

 2つをまとめて「検察捜査権完全剥奪(検捜完剥)法」と呼ばれる同法案は、文字通り検察の捜査権を完全に廃止し、検察には起訴権だけを持たせる内容だ。

 2019年から2020年にかけて、文在寅政権は、高位公職者に対する捜査権を、検察から新設する「高位公職者犯罪捜査処」(公捜処)に委ねるという「公捜処法」、さらに検事が事件送検前に警察の捜査を指揮する規定を廃止する改正刑事訴訟法、検察の直接捜査範囲を制限する改正検察庁法をそれぞれ成立させ、2021年から施行している。

 この法律と法改正により、韓国検察は「腐敗犯罪」「経済犯罪」「公職者犯罪」「選挙犯罪」「防衛事業犯罪」「大型惨事」の6つの重大犯罪に対する捜査権だけを持つことになった。そして今回「検捜完剥法」を国会に提出し、今度はこの6つの捜査権まで完全に奪うと検察に宣戦布告したのだ。

 共に民主党が検捜完剥を強行する表向きの理由は、検察の「天下無双の権力」に対する牽制であり、元検事総長の尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領が検察捜査力を乱用することを阻止するということだ。

 だが、韓国のメディアと国民はそうは見ていない。本当の目的は、文大統領と李在明氏が関与した事件に関して現在、検察が行っている捜査を空中分解させることだけにあると見ている。法案には検察から事件の捜査権を奪うことは明示しているが、奪った事件の捜査を誰がするかについては具体的な明示がないだめだ。