ロックダウンが実施され人通りが途絶えたオランダ・ロッテルダムのショッピング街(2021年12月19日、写真:Abaca/アフロ)

 新型コロナウイルス感染症をめぐっては、その対策を強化すればするほど個人の権利や自由が制限されるというジレンマがある。日本では、どこまで強い施策が可能なのか? 『コロナの憲法学』著者の大林啓吾(千葉大学教授)に讃井將満医師(自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長)が聞く(全3回の第1回)。テーマはロックダウン。連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第74回。

 新型コロナウイルス感染症と戦ってきたこの2年間、とくに状況の厳しかった感染の極期には、わたしは医療従事者の立場からしばしば“より強い施策“を望んだことがありました。たとえば、感染の拡大を阻止するためのロックダウン、病床不足を解消するための政府・都道府県の強制力の発揮・・・。しかし、強い施策は、自由主義社会の理念として共有してきた“個人の権利や自由“を制限するものでもあります。

 国民の命を守るために権利や自由をどこまで制限できるのか――「憲法とリスク」を研究テーマの1つとされ、その中で公衆衛生の問題に取り組んでいらっしゃる憲法学者、大林啓吾千葉大学教授に伺いました。

大林啓吾(おおばやし・けいご)
千葉大学大学院専門法務研究科教授。憲法の観点から公衆衛生の問題を研究し、著書に『コロナの憲法学』、『感染症と憲法』、『憲法とリスク』などがある。

ロックダウン実施には、まず法律を作る必要がある

讃井 まず伺いたいのはロックダウンについてです。医療従事者の立場からすると、感染拡大期にはロックダウンを行って一気に感染を抑え込んでほしいのですが、なぜ外国ではできて日本ではできないのでしょうか?

大林 ロックダウンを行うには法律の根拠が必要です。ところが、日本にはロックダウンに関する法律がないので、ロックダウンをすることはできません。ロックダウンを実施した欧米諸国でも、国や地方自治体レベルで法律や条例に緊急事態条項やロックダウンに関する規定があって、それに基づいて行うという法の支配の原則が貫かれています。

讃井 日本では憲法の中に緊急事態条項がないのでロックダウンができないということですか?