「世界一美しい少年」という十字架

『ベニスに死す』から50年。いったい彼はどんな生活を送ってきたのだろう。ここまで別人かと思うほど、人は変われるのか。デビュー当時から愁いを帯びていた彼の本質には悲しい生い立ちがあった。

 ミュージシャンになりたかったはにかみ屋の少年は目立ちたがりの美容師の祖母の勧めで、ヴィスコンティのオーディションに行った。それは一生分の代償を背負わされるほどのことだったろうか。

© Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021

 日本のイケメンと呼ばれる俳優たちからよく、「母に勧められた」「姉が○○のファンで、会うために勝手に応募された」といったデビューの経緯を聞く。ほとんど本人たちにその気はなく、「〇〇を食べさせてあげるから」「○○を買ってあげるから」「東京を見せてあげるから」といった何かの誘いに乗せられて、オーディションを受けることになる。

 子役出身の俳優たちもそう。そして、ほぼほぼ「次の人生では子役はしない、したくない」という。遊んだり、勉強したり、みんなと同じように普通の人生を送りたかったと。かわいく、美しく生まれた人を誰もがうらやましいと思う。果たして、それは特権なのだろうか。世界一美しい少年という十字架。あの時はよかった。残る何十年もの人生、世界中から言われ続けたであろうビョルンはいま、想像もできない荒波を生き抜き、誰とも比べられない、誰の評価も必要としない独特の魅力を湛えている。

© Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021

『世界で一番美しい少年』

12月17日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ他にて全国順次公開

© Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021

監督:クリスティーナ・リンドストロム & クリスティアン・ペトリ

出演:ビョルン・アンドレセン 『ベニスに死す』(71) 『ミッドサマー』(20) 

製作国:スウェーデン/英語・スウェーデン語・仏語・日本語・伊後/2021/シネスコ/5.1chデジタル/98分/字幕翻訳:松浦美奈/映倫G

後援:スウェーデン大使館

公式サイト:gaga.ne.jp/most-beautiful-boy
公式Twitter:@1217beautiful_b