前述のように、今年4月に李容洙さんなど元慰安婦や遺族20人が日本を相手取って起こした損害賠償請求訴訟が「主権免除」を理由に却下された。当時の裁判部は、「現時点で主権免除に関する国際慣習法、最高裁の判例による外国人被告(日本)に対する主権的行為の損賠訴は許されない」と判断したのである。主権国家は他国の裁判管轄権から免除されるという主権免除を日本政府に適用しなければならないという趣旨だった。

 この判決については「日韓関係の破綻を懸念する文在寅政権の負担を減らす判決」という一部の評価もあったが、左派陣営からは「反人権的で反人道的な犯罪行為までが(主権免除の)対象にはなり得ない」(京郷新聞)、「慰安婦問題は国際法の形式的枠組みに閉じ込められるのではなく、韓国憲法や国際人権法が最高の価値と宣言している人間の尊厳性に照らして判断しなければならない」(ハンギョレ新聞)などといった強い反発が起こった。今回の法案には、このような左派陣営の意向がそのまま盛り込まれていると見てよいだろう。

 もしも、この法案が国会で可決されれば、これからは慰安婦訴訟で「主権免除」原則を主張して裁判に応じなかった日本政府の戦略は通用しなくなる。日本政府は新たな対応を求められることになるだろう。

「主権免除」排除法案、可決される可能性大

 同じ時期に尹美香(ユン・ミヒャン)議員が共同発議した「慰安婦被害に対する名誉毀損禁止法」(正式名称は「日本軍慰安婦被害者に対する保護・支援および記念事業などに関する法律一部改正案」)は、激しい反対世論で法案が撤回された。慰安婦被害者や遺族だけでなく、慰安婦団体に対する事実に基づいた非難までを名誉毀損で処罰する新設条項によって、「尹美香保護法」というメディアからの揶揄と、元慰安婦の李容洙さんの激しい反発が反対世論を形成したのだ。

(参考)今度は「尹美香保護法」、韓国「暗黒国家化」への暴走止まらず
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66637

 しかし、チョン議員らが発議した「人身売買等防止及び被害者保護に関する法律改正案」は、国民世論やメディアが反対する可能性は低い。李容洙さんが積極的に支持しているという面からも、法案成立の可能性が高いとみられる。