民主主義国家では考えられない言論統制に本気で乗り出した文在寅大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 自分たちの気に入らない言論に対しては「虚偽・操作報道だ」と決めつけて弾圧し、北朝鮮の挑発や妄言に対しては「状況を鋭意注視している」としか言わない文在寅政権と与党。そんな国になりかけている韓国は「言論統制」が日常的になされる社会主義国と何ら変わらない国家になってしまったのか。北朝鮮が思い通りに操れる国になってしまったのか――。

与党が進める言論統制、違反したメディアには厳罰

「朝鮮日報」は8月12日付で、〈「言論懲罰法、朴正煕軍事政権も作ろうとしたが撤回」 野党はもちろん、保守・進歩とも反対〉と題する記事を掲載した。これは韓国の言論の自由に大きな制約を課し、韓国社会を軍国主義国、社会主義国のような国に変貌させかねない危険な立法である。まずはその記事の要旨を紹介しよう。

〇与党・共に民主党が推進する「言論仲裁法改正案」について、野党・国民の力はもちろん、与党系の正義党をはじめ、言論・市民団体、学界、法曹界など、保守派か進歩派かを問わず、あちこちから反対の声が相次いでいる。それでも与党は11日、「当初の計画通り25日の国会本会議で改正案を処理する」という。

〇今回の改正案は、法律で「虚偽・操作報道」を規定し、これに対し被害額の最大5倍までの懲罰的賠償を報道機関に課す条項を盛り込んでおり、「批判するマスメディアを事実上無力化させ、表現と言論の自由を抑圧し、政治・経済の権力者が言論にくつわをはめる恐れがある」と批判されている。

〇この法律は「政治・経済権力が悪用する」恐れがあり、「軍事政権でもできなかった発想である」。親与党系団体の民主言論市民連合でさえ「権力者が悪用する可能性に対する対応装置が備えられていない」と強く批判している。

〇韓国外国語大学のチョン・ジンソク名誉教授は「朴正煕(パク・チョンヒ)政権時代もいわゆる『言論倫理委員会法』により、間違っている報道や気にいらない報道をしたメディアに新聞用紙供給を減らしたり、融資を制限したりして不利益を被らせようとしたが、新聞関係者や記者たちの反対で頓挫したことがあった」「今の与党は厳しい軍事政権でもしなかったことをしている」と与党を批判している。

〇ソウル大学言論情報学科のユン・ソンミン教授は「言論仲裁法改正案という名称をつけてはいるが、実際は文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足当初から作ろうとしていた『フェイクニュース規制法』だ」と、意にそぐわない報道を「フェイクニュース」と規定して罰する意図があると主張している――。

 ざっとこんな内容だ。