経済力の低下とともに外国に広がった「日本恐るるに足らず」の感情

 ところで、この「追い込まれて開戦」という見方ですが、80年前の開戦は、日本の国力が膨張し、中国大陸や東南アジアで影響力を急速に増している時期の出来事でした。要するに、日本が強大化している時期でした。

 しかし現代は全く様相が変わっています。日本は人口減少がはじまり経済力も振るわなくなっています。一方、日本の最大の脅威は中国といえますが、その中国は強国化の道を驀進中です。つまり80年前の開国時の状況とは逆に、弱体化する日本を他国が「追い込む」という形になることが予想されます。

 1980年代後半から90年代初頭にかけての、日本が強力な経済力を誇っていた時代とは雲泥の差です。その時代には、中国との間で尖閣の問題がおおごとになることはありませんでしたし、韓国との間で慰安婦問題が先鋭化することもありませんでした。それはひとつには、日本の経済力が非常に強かったからです。

 1995年、世界のGDPに占める日本の比率は17.6%もありました。しかしここがピークで、その後は低下の一途を辿っています。2019年の日本の実質GDPが世界全体に占める割合を見ると、アメリカの24.4%、中国の16.3%に次ぐ第3位につけていますが、比率は5.8%で、米中の二大国に比べると格段に見劣りします。

 日本がアメリカに次ぐ経済大国だった時代には、ソニーやトヨタ、三菱銀行や住友銀行、日本興業銀行などが世界の時価総額ランキングで上位を占めていました。現代のアメリカのGAFAや中国のBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)のように、日本企業が世界経済を席巻していたと言っても過言ではない時代でした。

 その経済力の強さが、安全保障における一種の防波堤になっていたのです。アジアの途上国には、日本からの円借款で自国の経済成長を図ろうという国がたくさんありました。中国などはその最たる存在でした。日本との関係を悪くすることは、世界の国々にとって得策ではなかったのです。

 しかし、日本が他国を経済的に支援する力が相対的に小さくなってくるにつれ、防波堤の役割を果たすものが消失してしまいました。2010年、中国は名目GDPで日本を抜き、世界第2位の経済大国になりました。2018年には、韓国が購買力平価で換算した1人当たり名目GDPで日本を追い抜きました。こうした日本の経済力の弱体化が、他国に「日本恐るるに足らず」という想いを抱かせることになり、ひいてはそれが日本に対する様々な圧力に繋がっているのです。

 こうしてみてみると、安全保障における経済力の効力は無視できない要因になっていることが分かります。