東京都下のアパートには様々な人生を背負った人々が暮らしている(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 投資家、作家、ブロガーで知られる山本一郎氏は東京都下にアパートを所有している。その物件で暮らす住民と、コロナ下の日常について。破産した元経営者、シングルマザー、失業した若者、独居老人、コロナ病棟の看護師──。都会のアパートには、様々な人生が交錯している。(JBpress)

(山本一郎:投資家、作家)

 都下の集合住宅数棟に投資を始めてちょうど10年になります。

 全体で見ればたいした利回りではないけれど、複数の物件を管理していると、いろんな人生と出会うことがあります。コロナになって、お任せしていた管理会社も経営者が高齢で大変になったというので、次の管理会社が決まるまで自力で管理をやっていると、これはこれで楽しいなと思っていたんですよ。最初のうちだけかもしれないけど。

 当初、共同所有・管理でご一緒していた投資家たちも、悲しいお別れや無謀な金地金投資に手を出して破産するなどして一人、また一人と会社を離れました。そもそも私をアパート投資に呼び込んでくれた大物投資家も「コロナがこわい」とか言い出し、すべてを投げ出して逗子・葉山方面に家を買って移住していってしまいました。何してんだよ。

 最近、その彼から連絡があって、急に何だろうと思ってメッセージを開けてみたら、「コロナに罹った」という短い報告でした。不謹慎だというのは重々承知の上ではありますが、受け取った私の心の中に「ざまあみろ」という爽やかな見解が去来したのもいい思い出になりそうです。

 昨年来、アパート運営においては試練の事態が多数やってきました。たいていの原因は、緊急事態コロナ下の日々にあります。

 一番多かったのは、家賃の減免を求める減賃交渉。都下とはいえ、駅から近いところにあるアパートの住民には、いろんな職業の方がいらっしゃいます。

 昨年も、恐らくは水商売で頑張っておられるシングルマザーの女性から、仕事がないという理由で減賃の相談がありました。元気なかわいい息子さんが二人いて、ワンルーム暮らしではなかなか大変そうです。

 ただ、基本的に、苦しいから減賃と言われてそれをうっかり飲んでしまうと、他の苦しい住民の方にも不公平になりますし、家賃更新時に引き上げするのが難しくなります。何より地域の賃料相場が下がってしまいます。それもあって、たいていにおいては事情は斟酌しつつも減賃はお断りし、無理なら退去をお願いするのが一般的ではないかと思います。

 もちろん、一人暮らしやシングルマザーの人たちが経済的に厳しいのは良く知っていて、本当に何とかしてやりたいという気持ちになることも一再ならずあります。

 アパート経営をしている人なら良くご存知かもしれませんが、市区役所などでの助成・補助の手続きや、各種保険の取り扱いにも詳しくなっていきます。苦しい時はお互い様ですし、一時的な困難を乗り越えて希望を持って生きていけばどうにかなると信じてやっていくしかありません。減賃はお断りしつつも、家賃補助のお手伝いをして、このシングルマザーはめでたく契約継続になりました。良かったね。