「彼は決してイライラしない」

 わたしは初めてこのシートをみたとき、自分のぼんくらな高1のときと比べて、驚き、感心した。「ゴミ拾い」に1項目を割いた大谷はこういっている。「稲葉(篤紀)さんが試合中、守備から戻ってくるベンチの横で、ゴミをサッと拾ったことがあったんですけど、カッコ良くて感動しました。僕は、前を通り過ぎてから(ゴミに)呼ばれてる気がして、戻って拾う。お前はそれでいいのかって、後ろからトントンされちゃうタイプなんです」(『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』)。

 いま大谷があたりまえのように実行していて賞賛される行為のすべてが、じつは10年前に心に決めたことなのである。真剣に考え、本気でこのシートを書いていることがわかる。ただ書いただけではない。それぞれ自分が決めたことをつねに実践するべく心がけ、10年たったいまでは身についているのである。

 エンゼルスのジョー・マドン監督は大谷について、「彼はモノが違う。自分のすべきことをやり遂げる方法もそうだ。彼の重要な特徴として、自信に溢れている点を挙げることができると思う。同時に彼はとても謙虚なんだ」とコメントしている。

 また同僚のスーパースターであるマイク・トラウトの大谷評はこうである。「野球少年たちオオタニが多くのことをする姿を見て、どんだけ凄いんだと思うだろう。打つことでも投げることでもたくさん失敗するもんだが、彼は決してイライラしない。いつも笑っている」。

逆転2ランを打った大谷を迎えるエンゼルスの同僚マイク・トラウト(写真:AP/アフロ)

 かれの努力は凄まじい。かれが残す数字も凄い。でも「最も大きなことは彼のフィールド外での行動だ。ダグアウトやクラブハウス、トレーニングルームでのね。本当に信じがたいことだよ」。トラウトもまた大谷の明るい人間性を称賛しているのだ。

なぜ二刀流の前例がないのか

 大谷の人間性のすばらしさの前に、当然、大前提としてかれの驚嘆すべき二刀流の才能がある。われわれ素人にはそれがどれほど異常で困難なことかわからない。大谷が日本ハムに入ったとき、またエンゼルスに入ったとき、日米の野球関係者のほとんどが反対した。なぜか。かれらプロ野球経験者は、投打のどちらかだけでもプロの世界で生きていくことがどれほど大変か、身をもって知っていたからである。なぜ二刀流の前例がないのか。100人中99人が無理だと思うからである。