ここで注意すべきは、伝えたい内容も広告っぽく書かないことだ。記事の中には、企業にとってPRになり、かつ読者にとっても面白いものが存在する。実際、企業の広報担当者は、日夜「こんな商品を新発売します」といった書類(ニュースリリースと呼ばれる)をマスコミに送り、メディアもこの情報を元に記事を書くことがある。企業の情報の中には、面白いネタが存在するのだ。

「メディアの記事もその線を狙って、面白いネタや、役に立つネタとして書きます。例えばワインオープナーには『赤いスパークリングワイン・ランブルスコを楽しく飲むコツ』という記事があります。内容は“なぜランブルスコはワイン初心者にお勧めなのか”とか“ランブルスコはこう飲むとおいしいですよ”といったもので、ワインに興味がある方なら情報として面白くお読みいただけるはずです。そして最後に“お勧めはこちらですよ”と、サッポロビールさんが輸入したランブルスコを買えるサイトへのリンクが貼ってあるイメージです」

 下方氏が、鍵となる言葉を挙げた。

「既存の広告は、企業の情報を“プッシュ(押し込む)”で伝えます。もちろん効果的な方法ですが、今は検索結果やブックマークも重要な情報の流通経路になっています。情報を受け取る側は『これが知りたい』と検索したり、メディアを見たりします。その方に情報を届けたい場合は、プッシュの逆の“プル(興味を引くこと)”が重要なんです」

 ワインオープナーを例にとろう。ワイン好きであっても「ランブルスコは飲んだことがない」「知らない」という人は一定数いるはずだ。その層にランブルスコを試してもらいたくても、この方たちは決して「ランブルスコ」で検索することはない。

 しかし、ワインの総合メディアをつくれば「ワイン+飲み方」で検索した人が『ランブルスコを楽しく飲むコツ』といった記事に行き着きやすくなる。またワインオープナーのニュースを楽しみにしている方にも伝わるはず。今まで断絶されていた“情報の流通経路”出来上がるのだ。しかも、情報を受け取るのは「ワイン」で検索をする方か、ワインオープナーのファン、すなわちその多くが見込み顧客だ。

 下方氏によれば、運営料金は、月額数十万円から。もしかしたら今後は、例えば和菓子のメディア、ワイシャツのメディア、牛肉のメディアが誕生し、ファンが記事を楽しみにする時代が来るのかもしれない。

ランブルスコの記事の例(スマホ版)

起業の理由は“突出した症状”

 取材の後半は、下方社長の耳慣れない症状についての話になった。彼は「HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)」といって、人の感情に対する感受性が異常に高いらしいのだ。