「DX」の推進に向けた5つのステップとは

「DX」の導入・推進には5つのステップがある。スムーズな導入を実現するためには、ステップごとの定着を丁寧に検証していくことが重要になる。

▼デジタル化
 既存の業務フローやサービスをWebアプリやスマホアプリ、クラウドサービスなどに置き換えることで、様々なデータを蓄積できる状態にすること。具体的には営業支援ツール、生産管理ツール、勤怠管理ツール、経費管理ツールなどの導入が挙げられる。営業支援ツールを活用することで取引先の名刺情報、営業スタッフの訪問履歴、受注履歴などをデータ化することができる。「Uber」のような自動車配車サービスでは、アプリとクラウドの活用によってタクシーの空車情報のデータ化を実現している。

▼効率化
 デジタル化によって蓄積したデータを業務やマーケティング、サービス向上のために活用していく段階。集めたデータから「何を見出し、どのように活用するか」という企画力が問われる。営業支援ツールを活用している企業では、営業スタッフの訪問履歴と受注履歴の関係性に着目し、受注のための最適な訪問回数・訪問タイミングを導き出すことで、データに基づいた効率的な営業活動を展開している例もある。

▼共通化
 特定部門の業務やサービスだけでデータの共通化を図るだけでなく、全社、あるは企業グループ内でデータを活用するためのプラットフォームを構築していく段階。全社で共通のKPIを設定し、データを起点にしたPDCAサイクルを回していくといった施策も行われる。データに関するプラットフォームを構築することで、蓄積したデータを他部門の業務効率化やサービス・事業の高度化に活かすことも可能になる。

▼組織化
 蓄積されたデータや構築したプラットフォームを、より効率的に運用するための組織を作り上げる段階。この段階でデジタル専門部署を立ち上げる企業も多い。組織の規模やポテンシャルによっては、これまで以上に積極的なデータ活用やデータに基づいた意思決定も行えるようになる。

▼最適化
 会社のビジネスにイノベーションを起こす「DX」の最終段階。デジタル資産を活用して新規事業や新規サービスの立ち上げ、あらゆる事業計画のブラッシュアップを行う。いち早く「DX」に取り組んだ企業であっても、最適化に到達している企業はまだ少ない。現在も多くの企業が最適化を目指して「DX」を推進していると考えられる。

気になる企業事例を紹介

 現在では多くの企業が「DX」を推進しているが、ここでは産業用ロボットやメカトロニクス製品のメーカーとして知られる安川電機の事例を紹介する。

 安川電機では生産、販売、品質など、部門ごとに異なる形式でデータ管理を行っていたが、これらのデータを一元化することで社内に埋もれていたデータの見える化を図り、適切な経営判断を下せる体制を構築した。

 データの一元化については、各部門の社員が慣れ親しんでいたデータ形式を変えることになるため、当初は反対意見が噴出したという。そのため安川電機ではエンジニア出身の社長自らが「DX」推進の最前線に立ち、ICT戦略推進室を設置して室長に就いた。また、現場社員にデータ一元化の必要性を感じさせるため、先に組織再編を行うことでデータ形式が異なる状況の煩わしさを体験させた。さらには社長自らが各部門を訪れて対話集会を行い、「DX」の必要性を説いて回ったという。

 世界30の国と地域に拠点を持ち、売上の約7割を海外で稼ぐ安川電機。日本を代表するグルーバル企業の社長は、社内の誰よりも早く「DX」がもたらす全体最適の重要性に気づいていたのかもしれない。

 業務効率化やコスト削減を目的とした「IT化」とは異なり、全社を巻き込んだ取り組みが必要になる「DX」を情報システム部門だけで進めていくことは極めて難しい。「DX」の推進に欠かせない人材の採用や育成、人材の最適配置なども含めた組織構築支援など、人事部門もプロジェクトの一員として積極的に関わっていくことが「DX」成功の鍵を握っていると言えそうだ。「DX」の波は業界・業種を問わず、あらゆる企業に波及し始めている。まだ「DX」の機運を感じられない職場環境にいたとしても、日頃から「DX」に関するトピックスや他社事例などにアンテナを張っておくべきだろう。

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HRプロ編集部

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