「DX」推進のハードルとなる5つの課題とは

(1)経営層の理解不足
 経営層の「DX」に対する理解は、業界や業種、企業規模、個人の感度などによって大きく異なる。また、「DX」の必要性を理解していたとしても、既存のシステムの刷新や「DX」に必要な人材の採用に消極的な姿勢を取る経営層も少なくない。経営層の理解を得られない状況で「DX」の推進に取り組むことは難しいため、「DX」の必要性を十分に感じているキーパーソンの協力を得ながら、経営層への説明を丁寧に繰り返していくことが重要になる。

(2)必要なIT人材の確保
「DX」を推進するためにはAIやビッグデータ解析など、トレンドとなるデジタル技術を理解し、活用できるエンジニア、さらには会社の成長に必要なシステムの将来像を描ける情報システム部門の人材を採用・育成していく必要がある。ただし、多くの企業が求めている人材であるため採用が難しい。優秀なエンジニアやIT人材を採用するための採用広報やSNS型の採用メディアを活用するといった工夫が求められる。

(3)IT教育やノウハウの欠如
 組織内にIT人材が少ない事業会社は、IT技術の選定や導入、システムの運用をSIerに依存し過ぎている傾向がある。また、社内にノウハウが残りにくいため、自社システムの構造や問題点を把握できない状況に陥ることも珍しくない。まずは自社の情報システム部門などを中心に、自社システムについての理解を深めることから始め、継続的なIT教育のスキームを構築していく必要がある。

(4)レガシーシステムの存在
 過去の技術によって開発されたレガシーシステムが社内に残っている場合、新しい技術で開発されたシステムと連携できないことも多く、「DX」推進を目指したシステムの構築も極端に難しくなる。新しいシステムを導入するためのコストよりも、レガシーシステムを使い続けることによって生じるデメリットの方が大きいことを経営層に説明し、システムの刷新を促したい。

(5)非効率なIT投資
 レガシーシステムを使い続けるデメリットは、「DX」が進まないことだけに留まらない。今後はレガシーシステムの運用・保守を担当する人材の確保も難しくなるほか、レガシーシステムの維持には現行技術で開発されたシステム以上の管理コストがかかってしまう。「企業IT動向調査報告書2017」によれば、日本企業のIT関連費用の80%以上が既存システムの運用・保守に充てられており、ユーザーの満足度向上や売上向上のための戦略的IT投資に予算を投下できていない可能性があるとしている。

「DX」にはどのような人材が必要か

 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、2019年に公開した「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」の中で、「DX」の推進に必要な人材として以下6種類の職種を定義している。

●プロデューサー(リーダー)
「DX」やデジタルビジネスの実現を主導するリーダー格の人材(CDO/最高デジタル責任者も含む)。「DX」の最終目標はビジネスの変革であるため、自社のビジネス・戦略に関する深い理解が求められる。そのため既存の社内人材育成による獲得を考える企業が多い。

●ビジネスデザイナー(企画職)
「DX」やデジタルビジネスの企画・立案・推進等を担う人材。プロデューサーと共に「DX」プロジェクトの中核となる。プロデューサー同様、既存の社内人材育成による獲得を考える企業が多い。

●アーキテクト
「DX」やデジタルビジネスに関するシステムを設計できる人材。従来のITアーキテクトとほぼ同義の職種であるため、他の職種に比べれば育成・採用がしやすい。

●データサイエンティスト/AIエンジニア
「DX」に関するデジタル技術(AI・IoT等)やデータ解析に精通した人材。ここ数年で急速にニーズが高まっているものの、新しい技術領域を担う職種であるため多くの企業が「不足している」と感じている。即戦力を求める場合は中途採用が重視される傾向にある。

●UXデザイナー
「DX」やデジタルビジネスに関するシステムのユーザー向けデザインを担当する人材。従来のWebデザイナーの延長線上にある職種であり、他の職種に比べれば育成・採用がしやすい。

●エンジニア/プログラマ
 デジタルシステムの実装やインフラ構築等を担う人材。従来のITエンジニアとほぼ同義であるため、他の職種に比べれば育成・採用がしやすい。