数年前から、東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)における急速な高齢化が懸念されてきた。医療・介護不足につながる可能性があり、さらに今回のコロナ禍でより危機感が高まることとなった。
この問題の解決手段として挙げられるのが、東京圏から地方への「高齢者の移住」だ。実際に政府施策もスタートしているが、高齢化に歯止めをかけるほど移住が進むのは簡単ではない。
そこでヒントになるのが、日本でこれまでに行われた移住施策である。
「高齢者の移住施策は、1980年代から行われてきました。特に団塊の世代が大量に定年を迎えた2007年頃には、全国各地でさまざまな取り組みが実現。中には、今も参考にすべき施策が見られます」
こう話すのは、國學院大學経済学部の田原裕子教授。高齢者の人口移動などを研究してきた同氏の話をもとに、日本における高齢者の移住施策を振り返っていく。
【前回の記事】東京に迫る高齢化の危機、「移住」は防御策となるか(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60815)
「2007年問題」を見据えて設立された、移住のNPO
――今から40年近く前、1980年代頃から高齢者の移住施策は行われていたのでしょうか。
田原裕子氏(以下、敬称略) そうですね。たとえば1986年に持ち上がった「シルバーコロンビア計画」は、一つの例です。
当時の通商産業省(現・経済産業省)が提唱したもので、定年退職後の年齢層に向けて、海外移住を推奨する計画でした。主に高所得者層が対象でしたが、バブル崩壊などで計画は頓挫しました。
これは海外への移住ですが、高齢者層に対してこういった動きがあったことは、着目すべきポイントです。
国内での移住施策も、政府機関が音頭をとる形で1980年代には増えていました。こちらは若年層の誘致が中心でしたが、とはいえ、若者はなかなか地方への移住が進みません。その中で、ターゲットを高齢者に切り替えて誘致を行う自治体も出てきたのです。