米国ワシントン州シアトルで、消毒剤を使用してバスを清掃する車両メンテナンス担当者(2020年3月2日、写真:ロイター/アフロ)

(北村 淳:軍事社会学者)

 アメリカ海軍当局は米大平洋艦隊艦艇(最近、アジア地域に寄港した艦艇)に対して、14日間にわたる自己検疫隔離措置を下命した。韓国や日本やシンガポールをはじめとするアジア太平洋沿岸諸国に寄港した場合、艦艇に乗り組んでいる将兵が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患している可能性が否定できないからである。そのため、該当する軍艦は今後少なくとも2週間はどこにも寄港せずに海上を遊弋(ゆうよく)していなければならない、ということになった。

アメリカでは遠いアジアの出来事

 アメリカ海軍当局による自己検疫隔離措置は、太平洋とインド洋を主たる活動範囲にしている大平洋艦隊(第7艦隊、第3艦隊)に所属している艦艇に対するものであって、現在のところ大西洋や地中海を主たる活動範囲とする艦艇に対しては発せられていない。

 このことは、米海軍当局だけでなくアメリカ公衆衛生当局をはじめとするアメリカ政府、そしてアメリカ一般社会での、今回のCOVID-19に対する初動対応(初期における危機意識)の特徴を如実に表している。それは一言で言うならば、「新型コロナウイルスの感染拡大は遠いアジアでの出来事であり、アメリカはそれほど危険ではない」という意識があったことだ。すなわち、いまだにヨーロッパ系を祖先とする人々が多くの社会中枢を担っているアメリカ社会の底流に存在している意識である。

 もちろん、連邦政府をはじめとする政府機関や軍組織、それに高等教育機関などでも中枢ポストに就いているアジア系やアフリカ系の人材は多数いる。とはいえ、アメリカ社会とりわけ国家の方向を動かすようなレベルにおいては、ヒスパニック系ではない白人が優位に立っていることは否定できない。

CDCも当初は「インフルのほうが危険」

 もし、COVID-19の発生と初期段階での感染拡大が、中国、香港、シンガポールをはじめとするアジアではなく、イタリアやフランスなどのヨーロッパ(とりわけ西欧)地域であったならば、アメリカ公衆衛生局を中心とする米政府当局やアメリカ社会のCOVID-19に対する初期段階での反応と公的対応は、大きく違ったものであったことは間違いない。