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香港の銅鑼湾駅付近で警備する警官(2019年9月15日、写真:ロイター/アフロ)

(文:野口東秀)

 習近平政権は10月1日(中国の国慶節)の建国70周年を最重視している。香港情勢はその前後、どう変わっていくのだろうか。

 本稿の趣旨は、今後、香港の反政府デモの情勢次第で中国共産党が「武装力量」(中国の憲法および国防法によって規定されている武装組織を包括した呼び方。人民解放軍、人民武装警察部隊、民兵を指す)を香港に投入するか否かの分析である。複数の中国筋の指摘、今の習近平政権と1989年の天安門事件当時の政権との比較、武装力量を投入する条件などについて考察しようと思う。

 香港政府が「逃亡犯条例」改正案を撤回した。メンツを重んじる北京にとっては異例の判断であるとされ(筆者の見解はやや異なるが)、「香港での過激な反政府行動は下火になっていくのではないか。散発的に過激な破壊行動があっても、まさか中国軍を『国際金融都市』香港に展開するという、中国の国際関係にダメージを与えるリスクの大きい手段を北京がとることはないだろう」との見方が多いのではないか。

 しかし、中国筋の見解は全く異なっており、筆者の結論は、「爆破事件」、「公共施設に対する持続的破壊行為」などがあれば、中国共産党中央が中央軍事委員会傘下の人民武装警察部隊(武警)などを香港に展開する口実となり、その可能性は十分にあると考える。少なくとも50%以上の確率で。

 しかし、仮に実行してもその試みは結果的に政治的に失敗とみられてしまうだろう。

天安門事件の生々しい記憶

 天安門事件は筆者にとって忘れられない。1989年4月、「民主化の星」と呼ばれた前総書記(当時)の胡耀邦を追悼するため、天安門広場の英雄記念碑に1人の学生がよじ登って花輪をかけた瞬間を、モノトーンで記憶している。

 その時から反政府デモ、ハンガーストライキ、戒厳令、催涙弾による威嚇、軍部隊による鎮圧、その後の政府の動きを追いかけ、かけずり回っていた。ほとんどの学生リーダーにインタビューもした。新聞社の通訳、情報収集担当としての活動だった。当時の写真は白黒で数千枚はあろうか。

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