「自由にチャンネルを変えられるテレビと違い、時間の共有を強いる」映画という仕かけを通じ、「ミャンマー」や「難民」という枕詞を超えて、少年と家族の時間を追体験してほしい――。

 シナリオの執筆から撮影、編集まで、5年に及ぶ制作期間中、藤元さんはそれだけを考え続けた。

答えのない家族の幸せ

東京・東中野の映画館での舞台挨拶

 そんな家族の物語は、2017年秋に東京国際映画祭(アジアの未来部門)で作品賞と国際交流基金アジアセンター特別賞に輝いたのを機に、一躍、脚光を浴びた。

 その後、オランダ、タイ、オーストラリア、インドネシアをはじめ、20以上の国々の国際映画祭でも高評価を獲得。

 2018年秋に東京で始まった劇場公開も見る間に全国へと広がり、「海外ウエブでアジア映画批評家が選んだ2018日本映画ベスト10!」の第9位にも選ばれた。2019年も引き続き海外での公開が続いている。

 日本とミャンマーの間で思い悩む一家の姿が、国境を越えて人々の共感と支持を獲得し続けている背景には、内戦や政治弾圧、あるいは経済的な理由で国境を越える人々が急増し、受け入れが国際的に社会問題化している背景がある。

 さらに、彼らの多くは、数年後、あるいは数十年後に本国に戻ってからも、様々な困難が待ち受けているのが現実だ。

 行くも地獄、帰るも地獄――。

 近年、外国人労働者の受け入れ拡大を進めている日本にとっても、他人事ではない問題だ。

 葛藤という、直面している本人が夢中でもがいているうちに通り過ぎる感情に、外部者ならではの眼差しを注ぐことで、今日的な問題を浮かび上がらせることに成功した藤元さん。

 その一方で、日本に独り残った父親のその後を描かなかったのも、「家族の幸せの形は外から分からない」という外部者ならではの慎重さからだった。

 最後、スクリーンが暗くなった後も、エンドロールが流れ終わるまで母と2人の息子の足音が響き、一家の物語がこれからも続いていくことを暗示する。

 4人がそれぞれに受容できる居場所に帰ることを願わずにはいられない。