一家を演じた4人。2018年9月、ミャンマー・ヤンゴンで開かれた映画祭

 ある家族の暮らしと決断を描いた映画が世界中で話題を呼んでいる。

 祖国を逃れて日本にやって来たミャンマー人夫婦と、来日後に生まれた2人の息子たち。

 東京の片隅で仲睦まじく暮らしている彼らが、厳しい現実に直面し、悩み、葛藤しながらある決断をし、居場所を見つけていく様子を描いた作品は、日緬両国をはじめ世界各国で上映され、多くの観客を動員している。

 経済的、政治的な理由で国境を越える人々が増加し続ける今日、観客は4人の姿に何を見ているのか。

見知らぬ「祖国」

 「何か特定のメッセージを観客に伝えたかったわけではありません。ただ、一家が経験した時間を共有したかったのです」

 英領時代の建物が多く残るヤンゴン・ダウンタウン地区のカフェバー。藤元明雄監督がそう口にしたのは、通りを行き交う人や車のシルエットが夕闇に溶け始めた頃だった。

 暗くなった窓ガラスに映る店内の照明が満月のように見えるのを眺めながら、ひどく戸惑っていた。

 映画や音楽、絵画などの表現物には、世に問いかけたい主張が込められているものだという思い込みが真っ向から打ち砕かれ、途方に暮れて意味を尋ねることすらできない。

 一向に出てこない言葉の代わりに、映画のシーンが次々に蘇ってきた。入国管理局に何度も通っては申請が却下される現実に苦悩しながらも、日本で何とか居場所を得ようと懸命に働く父の横顔。

 拘留の恐怖に耐えかね、祖国に帰りたいと願う母の憔悴し切った表情。そんな両親の不安を敏感に察し、急に甘えたり、意味もなくケンカを始めたりする幼い兄弟たち。