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(文:首藤 淳哉)

 戦後日本における画期的な発明といえば? 人によって答えはさまざまだろうが、個人的には「51C」を挙げたい。

「51C」とは、1951年度に計画された公営住宅標準設計C型の通称である。焼け野原からの復興の過程で、不足していた住宅供給をどうするかが国の喫緊の課題だった。そんな中、35平米というコンパクトな空間で、食べる場所と寝る場所を分ける「食寝分離」を実現させた「51C」の理念は、その後設立された日本住宅公団にも引き継がれ、公共住宅の原型となっていく。間取りを考える際に私たちが当たり前のように思い浮かべる「nLDK」は、ここから発展したものだ。「51C」は、現代日本人の住まい方のルーツでもある。

 かつては狭い部屋で家族全員が寝食をともにするのが普通だったから、「51C」の理念に基づいて設計された公共住宅は、当時の人々には輝いて見えたに違いない。事実、1960年には完成してまもないひばりヶ丘団地を、皇太子ご夫妻が訪問されている。団地暮らしは新しいライフスタイルだったのだ。

住民の著しい高齢化の問題

 だが、戦後は遠くなりにけり。いまや団地に往時の輝きはない。

 住民たちの高齢化が進み、ひとりまたひとりと櫛の歯が抜けるように減って行く。入れ替わりに入居してきたのは外国人だ。人々の憧れだった団地は、いまや孤独死や異文化摩擦、ヘイトといった数々の社会問題が噴出する最先端の課題先取り空間となっている。

『団地と移民』は、長年にわたり排外主義の問題を追いかけてきた著者が、日本各地やパリ郊外の団地の最前線で起きていることをルポした一冊だ。かつては「夢と希望の地」だった団地がここまで様変わりしているとは、正直この本を読むまで想像していなかった。