「世界が一体化する」というのは、どういう事象を指すのでしょうか? 1つの捉え方としては、世界中のすみずみに同じ商品が行き渡るようになる、ということだと言えます。ある商品を介して「世界が一体化する」わけです。
現在では、世界中のどこにいても、インターネットによって目的の商品を購入することが可能です。さまざまなグローバル商品によって世界中の地域が一体化しています。これこそグローバリゼーションの究極の姿とも言えるでしょう。ア
マゾンでボタンをクリックすれば、世界中の商品が手に入ります。インターネット登場前の時代には想像できなかった世界が実現されているのです。
では史上初の「グローバル商品」とは一体何だったのでしょうか? それは、「綿製品」でした。綿こそが、世界を一体化させた最初の商品だったのです。
18世紀後半のイギリス産業革命は、一般的に綿織物工業によって始まったとされます。このとき、イギリスの綿製品が世界中を席巻し、「グローバル商品」になっていったのです。
では、綿はどういう過程をたどってグローバル商品になっていったのか。これから3回にわたって、その経過を見ていきたいと思います。
熱帯から寒冷地に至るまで人々に欲された「綿」
綿は、多年生のワタ植物(ワタ属アルボレウム)に属します。
綿栽培の最古の遺跡はメキシコで発見されており、すでに約8000年前には栽培されていたことが明らかになっています。
旧大陸では、現在のインドで約7000年前に木綿が栽培されていたことが分かっています。
また前2500~前1500年ごろのインダス川流域にあるモヘンジョダロの遺跡からは、綿織物を生産していた痕跡が見つかっています。
インドは現在でも、中国に次ぐ世界第2の綿花の生産量を誇っていますが、その源流はこれほどはるか昔にあるのです。
ただし世界的に見れば、このころの人類の衣服の素材として綿はそれほどメジャーなものではありませんでした。というのも、綿花は熱帯から亜熱帯にかけて生育する植物なので、比較的寒冷なヨーロッパなどでは栽培が難しかったからです。当初、その生産と流通は、ほぼインドに限られていました。
現代の分類では、主要な天然繊維として、羊毛、麻、綿、絹を「4大天然繊維」と呼んでいます。絹織物は昔も今の高級品で、庶民が手を出せるようなものではありませんでした。綿織物が庶民に行き渡るようになるのも、ずっと後の時代のことです。綿花栽培が盛んだったインダス川流域などを除けば、人々は麻やウールの衣類を身にまとっていたのでした。通気性に優れる麻は熱帯、亜熱帯の人々には好まれますが、保温性や柔軟性という点では難があります。ウールを使った毛織物は、保温性に優れ寒冷地の人には適していますが、逆に熱帯や亜熱帯の人には好まれません。