日本の長期的な国際競争力を考える際に、科学技術が果たすべき役割は大きい。2008年や2010年には、ノーベル賞の同時受賞に日本が沸いた。しかしながら、日本の科学技術の推進やそこからのイノベーションを考えるためには、より大きな視点で科学技術を捉えていく必要がある。

 ここでは、長期的に科学技術が育つような社会を考えるために、日本と米国の企業と研究開発のあり方を考えてみる。

「短期視点の米国企業、長期視点の日本企業」は本当か?

 高度経済成長期から1990年代まで、日本企業は産業構造を変えながら、大きな成長を遂げてきた。自動車や半導体、コンシューマーエレクトロニクスなど高い国際競争力を構築した産業も多い。

 その結果、米国企業との比較において、日本型マネジメントの特質に大きな注目が集まった。終身雇用や株の相互持ち合い、「ケイレツ」など日本型のマネジメントの特徴が語られた。

 その特徴の1つとして、米国に代表されるようなアングロサクソン型の企業と比べると、日本企業の意思決定は長期的な視点に立っていると考えられた。

 企業の研究開発について言えば、長期的な視点に立っているからこそ、日本企業は幹の太い技術開発ができると評された。株主の影響が強い米国企業は、必然的に短期的な経済合理性に大きな重要性を置かざるを得ず、研究開発への投資もどうしても近視眼的になりやすいという。

 実際、日本では60年代からは中央研究所ブームが起こり、それまで弱いとされた基礎研究に企業は力を入れたのである。

 一方で、70年代中頃から米国企業は、それまでの多角化を進める戦略から、大きく選択と集中にシフトしていった。利益率の低い事業、今後、大きな発展が見込めない事業、あるいは自社が競争優位を確立できる見込みの少ない事業からは撤退していった。86年には、エレクトロニクスの名門企業であるRCA(Radio Corporation America)がゼネラル・エレクトリック(GE)に買収された。そのGEもジャック・ウェルチ氏の下、事業のリストラクチャリングを繰り返した。

 これらが、「日本企業は株の相互持ち合いや長期的な雇用慣行によって、長期的な視点に立って研究開発を行う一方で、株式市場からの影響を受けやすい米国企業は、短期の合理性から研究開発を選別していく」と考えられた背景である。「短期視点の米国企業と、長期視点の日本企業」という対比が出来上がったのである。

 しかしながら、最近ではこの通説が実は成立していないことを実証的に示す研究も出てきている 。