官僚の不祥事が相次ぎ、バッシングが燃え盛っている。しかし、政策を実働部隊として実現させ、日本の政治を支えているのは紛れもなく官僚だ。官僚が国民の信用を得るためには一体何が必要なのか。かつて建設省/国土交通省で大型ダムの建設に携わった竹村公太郎氏(日本水フォーラム代表理事)が、現役の行政官に伝えておきたい自らの体験を綴る。(前編/全2回、JBpress)
「尊敬する行政の先輩とは?」
平成19(2007)年から、人事院研修所の客員教授を勤めている。新人行政官たちと縦割りの行政組織にとらわれない自由な議論をし、中堅行政官やシニア行政官と行政のあり方を議論している。
その人事院の教壇に立った最初の日、「先生さんが尊敬する行政の先輩とは、どのような方ですか?」という質問を受けた。このような直接的で、ごまかしようのない質問など受けた記憶はなかった。
心の準備が全くなかった私の頭の中で、ふっと浮かんできたのは、建設省に入省して最初に配属された川治ダムの先輩たちの背中であった。
川治ダムの現場
35年前の昭和45(1970)年、建設省(現・国土交通省)に入省し、栃木県の鬼怒川の川治ダム(栃木県日光市)の現場に配属された。川治ダムは、建設省の最大の高さ140メートルというアーチダムであった。現場に出る覚悟はあったが、まさか山奥のダムとは思いもしなかった。大学ではアーチダム技術など学んでいなかった。ダム現場で勤まるのかという不安を抱えて赴任した。
川治ダム工事事務所はダム本体設計のための地質調査と、本体工事の準備工事や付け替え道路工事で活気が満ち溢れていた。
その川治ダム現場で、技術者として、行政官として、生涯の師や先輩たちと出会うこととなった。ダム工事事務所の所長や課長は、いくつものダムを経験してきたダムのプロ集団であった。私は懸命にダム用語と技術と事業の進め方を、先輩たちから学び取る日々を過ごしていった。
単身赴任の先輩たちと私たち独身者は、同じ寮で生活を共にしていた。その先輩たちは、酒にもめっぽう強かった。毎晩、知らず知らず、私は先輩たちから、酒の飲み方を学び、酒席の礼儀を学び、世の中の仕組みも学んでいた。