そういう作業を読者に強いるわけですから、版面や字面でもそこはある程度示してやらなくてはならない。ブロックを漫画のコマと考えるなら、それぞれに時間の流れ方が違っているわけだし、同じブロックの中でも文節や文意で見せ方は変わっているべきです。それも一目でわかるようにしなきゃいけない。

 本をパッと開いたとき、もちろん文章は読めていなくとも、版面は目に入っています。形として似ていれば、内容も類似していると脳は判断します。だから、たとえば同じことを別の形で説明しているパートは形(行数や、最終行の長さなど)を似せてやったりするわけですね。もちろん同じテクニックで読者を意識的に騙すこともできます。

 見開きの中に、情報をどんな形でどのように配置するかはとても大事なことだと考えています。もちろん「見た目」としてはグラフィックデザインの領域なんでしょうが、小説の場合はむしろ意味や時間が重要視されるわけです。すべてが意図的に整理されていないと、高い効果は得られません。

 名文を書く人はいます。でもきれいな文章を読んでも、感動はしたけどよく考えると何が書いてあるかがわからなかったりもしますね。ミステリーの場合、それではダメです。怪奇小説なんかの場合はわざと悪い文章にしなければいけないケースもあるでしょう。ガタガタさせることによって、なんとなく気持ち悪くさせるとか、悪文を挿入することによって前後の文章の気持ちよさを目立たせるとか、引っ掛かりを作って読む速度を遅くさせるとか、いろいろできます。版面の操作も、その一環です。

 そういう作業を細かく細かく入れ込んでていきます。でも失敗も多いですよ。本になってから見たらまるで効果ナシだったりもしますし。発展途上もいいところですね。

まずその作品で使う漢字のレベルを決める

 もっと細かい話をします。これはまだ文字を書いていないInDesignの版面(グリッド)なんですけど、何かに似ていませんか(図)。文字が入る一コマ一コマがさっきのマンガのコマに見えますね。ということは、このコマの中で時間を流すか流さないかで、仕上がりもずいぶん変わってくるわけです。

図 InDesignのグリッド