(文:山田敏弘)
メキシコの著名な女性ジャーナリスト、カルメン・アリステギが、エンリケ・ペーニャ・ニエト大統領にとって大打撃となる汚職疑惑をスクープしたのは2014年のこと。
すると翌年1月から、アリステギの携帯電話などに様々な怪しいテキストメッセージが届くようになった。たとえば、在メキシコ米大使館からは、ビザに問題が見つかったためにリンク先の詳細をチェックしてほしい、というテキストメッセージが届いた。また別の日には、「前のメッセージが送信できませんでした」というメッセージが来たり、行方不明の子供を探してほしいというメール、アリステギの誘拐計画があると知らせるメールなど、いろいろなメッセージが送られてきた。
百戦錬磨のジャーナリストであるアリステギは、それらのメッセージを怪しいものと判断して無視した。だがすべてを放置していると、挙句には彼女の16歳(当時)の息子にまでおかしなテキストメールが届くようになったという。さらに彼女の運営するウェブサイトも、繰り返しハッキング被害にあった。
メキシコ政府がサイバー工作
実はこれらのサイバー攻撃はすべて、メキシコ政府の仕業だったとみられている。つまり、政権に不都合なジャーナリストの動きを監視するための、サイバー工作だったのである。届いた数々のメールは、彼女の携帯などをハッキングする目的でリンクをクリックさせようとしたもので、もしハッキングされていたら、彼女の取材からプライベートまで、すべてが政府に筒抜けになるところだった――。
そして2017年7月、メキシコ政府がどのように、サイバー工作で反体制的な国民を監視しているのかがメディアで暴露され、世界中のセキュリティ関係者の間で話題になった。
もっとも近年、世界では強権的な政府が自国民に対してサイバー工作を仕掛けて、監視などを行っているというケースが表面化している。そして、そうした政府のサイバー攻撃を支えているのが、民間企業が目立たぬように開発しているサイバー攻撃システムだ。
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