専門職大学への転換は現実的なのだろうか。

 前回の記事「いよいよ開学、大どんでん返しで誕生した専門職大学」では、実に55年ぶりの大学制度の改変によって、専門職大学・専門職短期大学という新制度が創設されたこと、ただし、そこに至るまでには、政策的にはかなりの「迷走」が続き、最終的にはある種の「政治力学」が働くことで決着したのであろうことを指摘した。

 今回は、そうした成立経緯については脇において、純粋に教育(制度)論として、そもそも専門職大学・短大の創設は、社会的・教育的ニーズに即したものだったのかどうか、新制度の今後には順調な発展が期待できるのかどうかについて考えてみたい。

新制度の創設の根拠

 おそらく誰もが気になるのは、そもそもなぜ、専門職大学・短大という新たな種類の大学制度の創設が必要だったのかというその理由であろう。

 新制度を提案した中教審答申「個人の能力と可能性を開花させ、全員参加による課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在り方について」(2016年)や文部科学省の説明を分かりやすく噛み砕けば、その理由は端的に「既存の大学教育は、アカデミックな学術研究を主要な目的としているので、今後も続く産業構造の変化に応じて、イノベーションを担うような高度な職業人の育成はできない」というものである。だからこそ「職業教育に特化した高等教育機関の新たな創設が必要になるのだ」と。

 大学の側から考えれば、大学教育が踏まえるべき社会のニーズは、そのまま産業界のニーズと等値とされるわけではないはずなのだが、この点はおいておこう。言うまでもないが、産業界もまた、大学教育にとっての重要なステークホルダーの“ひとつ”であることは間違いないからである。

 ただ、この点を認めたうえでなお、先の理由づけには納得のいかない点が残る。