厚生労働省によると2017年6月の有効求人倍率(季節調整値)は1.51倍で、43年4ヵ月ぶりの高水準を記録した。なかでも正社員の有効求人倍率は1.01倍となっており、1倍を上回るのは調査開始の2004年以来初めてのことだ。
この状況を受けて、人手不足による企業経営への影響が深刻化している。一人ひとりの従業員の負担が増すだけでなく、離職・採用難で人手が確保できず業務が維持できなくなる「人手不足倒産」に追い込まれるケースも増えている。企業の死活問題といえる人手不足の現状についてリポートする。
人手不足の中小企業は約6割 宿泊・飲食、運輸、看護・介護、建設で特に深刻
日本商工会議所が全国の中小企業4,072社を対象に行った2017年度の「人手不足等への対応に関する調査」によると、人員の過不足状況について「不足している」と回答した企業は調査を開始した2年前から毎年増加しており、今年度は初年度と比べて10.3ポイント上昇の60.6%まで高まった。「不足している」の割合が高かった業種は、宿泊・飲食業(83.8%)、運輸業(74.1%)、介護・看護(70.0%)、建設業(67.7%)だった。
また、人手不足を感じている中小企業が求める人材は「即戦力となる中堅層、専門家」(62.0%)や「一定の経験を有した若手社員(第二新卒等)」(60.3%)という傾向が現れていた。一日も早く組織で活躍できる人材に期待が集まる背景には、長期的な視点による人材育成よりも目先の業務活動を優先せざるをえない中小企業の切迫感がうかがえる。
「人手不足倒産」は4年で2.9倍に増加 建設業・サービス業で顕著
人手不足の深刻さは帝国データバンクが定義する「人手不足倒産」の件数の推移にも如実に現れている。
同社では“従業員の離職や採用難等で人手を確保できなかったことが要因となって倒産(法的整理)した企業(負債1,000万円以上、個人事業主を含む)”を「人手不足倒産」と定義しており、この前提に沿った「『人手不足倒産』の動向調査(2013年1月~2017年6月)」を発表した。調査によると、調査対象期間の人手不足倒産の累計は290件。半期別で比較した場合、2017年上半期は49件で、調査開始当初の2013年上半期(17件)と比較すると、4年で2.9倍に増加した。
負債規模別では、4年半累計で最多は「1億円未満」で137件と約半数を占め、次いで「1〜5億円未満」が117件。もともと従業員数が少ない小規模企業にとって、人手不足が経営に与えるダメージが大きいことがうかがえる。
業種別では、4年半累計で建設業(105件、36.2%)、サービス業(92件、31.7%)の2業種で全体の約7割を占めた。さらに業種再分類別では、ネット通販の普及等で業務逼迫が大きな問題となっている道路貨物輸送が17件と目立つ。
「人手不足問題」は深刻化と広がりが増す見通しだが、外国人材のニーズは低調
日本商工会議所の同調査で、人員が不足していると答えた企業に対して、数年後(3年程度)の人員充足感の見通しについて尋ねたところ、「現在と同程度の不足感が続く」が52.0%、「不足感が増す」が39.8%で合わせて9割を超える。さらに現在の人員について人手不足を感じていない中小企業も、数年後については「不足感が増す」と見通す回答が3割を超えており、人手不足問題のさらなる深刻化と広がりが懸念される。
人手確保の方法の一つは外国人材の受け入れだが、受け入れのニーズは「ない」と回答した企業の割合が56.8%と半数を超えた。理由としては、ビザ取得等の事務手続き面のハードルではなく、「日本人を求人したいため」「言語等コミュニケーションに懸念があるため」が上位を占めた。
人手確保や従業員の離職防止には賃金の引き上げなど継続した企業努力が必要だ。政府も人手不足解消を喫緊の課題としており、IT化による生産性向上やいきいきと働く高齢者の増加等のあらゆる方法を模索している。