機械技術も電子技術も、そしてそれらを合体させたメカトロニクスも日本のお家芸。しかし、これらの技術の医療への応用はまだ始まったばかり。世界一の高齢化社会を迎える日本にとって、実はこの分野は大きな市場が見込める宝の山である。
前回は超微細加工の技術を生かして血管を縫合できる世界最小の手術用針を開発した河野製作所(千葉県市川市)をご紹介した。今回は全く別の切り口から医療分野を攻めている2社をご紹介しよう。
医療産業への参入は、手術ロボット、体内に埋め込むインプラントからガーゼといった消耗品に至るまで間口が広い。
今回は、研修医や看護師が、初めて患者さんに接する時に、緊張しすぎたりうまくいかなかったりといったことにならないよう、リアルさを追求した訓練ができるよう考え抜かれた製品をご紹介する。
自動車部品から浣腸練習キットを生み出したワケ
「販売とは今までできなかったことを可能にすることだ。その手段が困っている現場と向き合う製品だ」
こう語るのは自動車部品の製造を主軸とするコージン(富山県上市町)の小柴雅信社長(43歳)だ。
29歳の時に、当時の社長だった父親が出張先で急逝し、31歳で事業を継いだ。医療向けにもの作りを始めたのは2014年で、2年かけて試作から販売へと漕ぎ着けた。
浣腸というとイチジク浣腸を思い浮かべる人も多いだろう。マーケティングリサーチ会社のインテージ(東京都千代田区)の調べでは、薬局で販売される便秘薬市場は年間300億円強で、2013年度は便秘薬が266億円、浣腸剤が53億円だったという。
やや乱暴な概算だが、浣腸剤1個を100円とすると、5300万個売れていることになる。
メーカーによっては、1個あたり100円以下の製品も少なくないので、実際にはもっと売れていると考えられる。
コージンが開発したのはこうした個人向けの浣腸剤ではなく、看護師が患者に対して手際よく浣腸する訓練用の教材「かん助」だ。
同社はプラスチックと金属や紙などの異種素材が合体した状態で金型から出てくるインサート成型を得意とし、この技術を基に柔らかいプラスチックと硬いプラスチックで「かん助」を生み出した。