前回は、マツダの「圧縮比14」という、マツダの「常識破り」のディーゼルエンジンがいかにして実現されたかを解説した。

 そこにもう1つ、機械製品としての重要なポイントを追記しておこう。

 圧縮比が高いこれまでのディーゼルエンジンだと、グッと狭く押し縮められた燃焼室の中に燃料を噴き込んで一気に燃やす。その瞬間、急激な圧力の上昇が生ずるため、それに耐えるために構造を頑丈にしなければならない。

 だが、今回のマツダの新ディーゼルエンジンは圧縮比を下げたことで、その圧力急上昇も押さえられる。つまり骨格や運動部品を必要以上に頑丈にしなくてもいい。すなわち軽くできる。シリンダーブロックはアルミ合金が使えるし(普通は鋳鉄)、ピストンやクランクシャフトはコンパクトに軽くできた。

 燃焼のピークが「ガツン!」と出ないことも合わせて、きれいに回るエンジンになるはずである。

燃焼コントロールで世界基準の厳しい排ガス規制をクリア

 さらにこのディーゼルエンジンがすごいのは、今日、世界的にものすごく厳しくなっている排出ガス規制に、最小限の後処理システムだけで対応できる、ということ。

 世界中の乗用車と商用車のメーカーが、特に窒素酸化物(NOx)処理のために専用の触媒を付加せざるを得ないと判断している。その1つである「NOx吸蔵触媒」は、捕えたNOxを分解するために余分な燃料を燃やないまま排気側に流し出す必要があるし、燃料の中に硫黄分がわずかに混じっているだけでも浄化性能が一気に劣化する。

 「選択反応型触媒(SCR)」は排気の中に尿素を吹き込むことでアンモニアを作り、それでNOxを分解する。尿素水(商品名:AdBlue)を使う手法が主流になりつつあるが、クルマにはそれを積むタンクと調量噴射システムなどを載せる必要があり、もちろん燃料とは別に尿素水を供給するインフラも要る。

 マツダの新しいディーゼルエンジンは、そうした複雑な、あるいはデメリットも多い「後処理システム」を使わず、EGR(排出ガス再循環)を含めた燃焼のコントロールだけで、世界で最も厳しいアメリカの「Tier2-Bin5」規制にも、ヨーロッパの次期ターゲットである「Euro6」規制にも対応できる、という。

 もし本当にそうなのであれば(既に認証段階に入っているので『本当』なのだが)、世界の内燃機関開発者にとっては「常識の壁」が壊されたことになる。

 さらに酸化触媒とDPF(ディーゼル・パーティキュレート・フィルター)を組み合わせた基本的な排気浄化システムの中に使う触媒物質(白金)の量も大幅に減らせるという。NOx後処理の簡素化と合わせて、排気対策のためのコストは、それこそ劇的に削減できるはずである。