食糧危機がまだ心配?4つのリスクは杞憂に過ぎない

日本農業、再構築への道<3>

2010.11.09(Tue) 川島 博之
筆者プロフィール&コラム概要

 この事例が示すように、食料の禁輸により政治目的を達成することは極めて難しい。これ以降、食料の禁輸が政治手段として使われることはなかった。

最貧国にならない限り食料は輸入できる

 (3)少子高齢化が進行する中で経済が疲弊し、外貨がなくなり、食料を輸入したくとも輸入できなくなる。

 外貨がなくなり輸入できなくなる可能性があるかどうかを判断するには、食料の輸入代金と、その内訳を知る必要がある。

 2009年の輸入総額は51兆円であったが、この中で食料を輸入するために支払った金額は5兆円であった。食料の輸入に必要な費用は総輸入額の約1割である。

 その内訳を見ると、エビやマグロなどの水産物の輸入に1.2兆円、食肉の輸入に9000億円も使っている。その他でも、タバコやワイン、コーヒーなどの代金として5000億円余りを支払っている。

 エビやマグロ、また、タバコやワイン、コーヒーは、生活に潤いを与えるものであろうが、それがなければ生きてゆくことができないものではない。生きるために欠かせない食料は小麦、トウモロコシ、大豆だが、それに支払っている代金は食料輸入額の約2割である。つまり、生きてゆくために必要な食料に要する金額は、輸入総額の約2%ということになる。

 そう考えれば、よほど貧しくならない限り、問題なく食料を輸入することができよう。もし、日本が小麦やトウモロコシ、大豆を輸入することもままならないほどに落ちぶれるとしたら、それは、アフリカなどに見られる最貧国レベルに転落することを意味する。そこまで落ちぶれることはないと思うし、また、そうならないように努力すべきである。

商売を邪魔された国は激怒する

 (4)日本が戦争をしなくとも、国籍不明の潜水艦によって海上封鎖されて、食料の輸入が途絶する。

 国籍不明の潜水艦により日本が海上封鎖されるケースはまずあり得ないと思うが、もし万が一生じたとしても、それが長期間にわたり継続することはない。

 理由は、日本が食料の多くを米国から輸入しているためである。ある国の潜水艦が、日本へ食料を運んでいる商船を選んで攻撃したとしたら、それは米国の商売を邪魔することになってしまう。

 商売を邪魔されれば、個人でも国でも激怒する。それゆえに、日米安全保障条約を持ち出すまでもなく、米国は潜水艦を攻撃し、そのようなことをしでかした指導者を罰することになる。現在の米国の軍事力を考えれば、そのような指導者の末路は、イラクのフセイン元大統領のようなものになろう。冷静に考えれば、日本が食料を運んでいる船舶を攻撃しようなどと考える国はない。

 以上で検討したように、食料が輸入できなくなるリスクは限りなくゼロに近い。

 昔、杞の国の人は天が落ちてくることを心配していたとされ、これが杞憂の語源になったが、食料を輸入できなくなる事態を心配することは、どこかその杞の国の人の憂いに似ている。

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東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。1953年生まれ。77年東京水産大学卒業、83年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得のうえ退学(工学博士)。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員などを経て、現職。主な著書に『農民国家 中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』など


農業の進む道

就業者の高齢化と減少、国際競争力の欠如など、様々な問題を抱える日本の農業。農業改革が遅々として進まないのはなぜか。農業を覆う問題の構造を明らかにし、あらゆる方面から日本の農業を活性化する方策を探る。