食糧危機がまだ心配?4つのリスクは杞憂に過ぎない

日本農業、再構築への道<3>

2010.11.09(Tue) 川島 博之
筆者プロフィール&コラム概要

 前回述べたように、21世紀に世界が食糧危機に見舞われる危険性は極めて低い。

 しかし、そう説明しても、それでも将来の食料輸入を心配する声がある。多くの人は、次のような事態を心配しているようだ。

(1)世界的な食糧危機は起きなくとも、輸出国が不作になった際に、自国への供給を優先して売ってくれなくなる。

(2)食料は生きてゆくのに欠かせないものであるから、その禁輸をちらつかされて、政治的な譲歩を迫られる。

(3)少子高齢化が進行する中で経済が疲弊し、外貨がなくなり、食料を輸入したくとも輸入できなくなる。

(4)日本が戦争をしなくとも、国籍不明の潜水艦によって海上封鎖されて、食料の輸入が途絶する。

 食料を自給した方がよいと考える理由は、以上の4つに集約することができよう。

 これはリスク管理の問題である。リスクをゼロにすることはできないが、自給率の向上に多額の費用を要することを考えれば、リスクを冷静に見つめた上で、向上させるべきかどうかを判断すべきであろう。リスク評価も行わずに、恐れがあるからと言って、闇雲に自給率の向上を主張すべきではない。

 今回は、以上に挙げた4つのリスクがどの程度のものなのか考えてみたい。

不作時に食料輸出を禁じるのはどこの国か

 (1)世界的な食糧危機は起きなくとも、輸出国が不作になった際に、自国への供給を優先して売ってくれなくなる。

 この可能性を考えるためには、日本がどこから食料を輸入しているかを知る必要がある。

 多くの人は、食料をアジアの開発途上国から輸入していると思っているようだ。しかし、それは間違いである。日本は食料を、主に米国、カナダ、ブラジルから輸入している。牛肉はオーストラリアからの輸入が多い。

 これらの国は食料輸出大国であり、少しぐらい不作になっても、輸出を継続する力を持っている。米国、カナダからの輸入が多くなっている理由は、高品質のものが安定的に手に入るからだ。少々品質が悪くてもよいのなら、それ以外の国から輸入することも可能である。

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東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。1953年生まれ。77年東京水産大学卒業、83年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得のうえ退学(工学博士)。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員などを経て、現職。主な著書に『農民国家 中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』など


農業の進む道

就業者の高齢化と減少、国際競争力の欠如など、様々な問題を抱える日本の農業。農業改革が遅々として進まないのはなぜか。農業を覆う問題の構造を明らかにし、あらゆる方面から日本の農業を活性化する方策を探る。