ヒラリーからの観劇の招待
「ヒラリーと一緒に『ハミルトン』を観劇しませんか」
まもなく名実ともに米民主党大統領候補になるヒラリー・クリントン前国務長官から私にメールが届いた。同じ文面のメールは私以外の何百万、何千万の有権者に送られているはずだ。
メールは続けてこう書いている。
選挙資金1ドル出せば、抽選で8月某日、ヒラリー氏と今人気絶頂のブロードウェイ・ミュージカル『ハミルトン』が楽しめる。ニューヨークまでの飛行機代、ホテル代はすべて出してくれるというのだ。
連邦選挙法に抵触するかもしれない、新手の選挙資金集め。候補者からのメッセージは今や選挙戦の最大の武器であるインターネットを通じて米全土を駆け巡っている。
歴史劇ミュージカル、トニー賞11部門で冠
ところで、『ハミルトン』ってどんなミュージカル?
今米国内で一大旋風を巻き起こしているブロードウェイ・ミュージカルだ。チケットは来年夏まで完売。プレミアがつくオンラインでは平日のマチネー(昼間興行)でも800ドル、金曜、土曜の夜では1500ドル。
米演劇界では最高の栄誉とされるトニー賞ミュージカル部門では作品賞、主演男優賞、演出賞、オリジナル楽曲賞など11冠に輝いている。
独立前夜の米国政界を舞台に暗躍する白人の「建国の父」たちが繰り広げる人間ドラマをヒップ・ホップ音楽に乗せて、歌い、踊りまくる。
セールスポイントは、「建国の父」の時代だというのに白人の俳優が一切出てこないこと(唯一白人が演じているのは英国のジョージ3世のみ)。
主役のハミルトンからジョージ・ワシントン(初代大統領)やトーマス・ジェファーソン(第3代大統領)をプエルトリコ系、メキシコ系が演じている。ハミルトンの妻エリーザは中国系、その妹は黒人女優だ。
「『建国の父』が非白人だということ自体、建国から200年経った今のアメリカ合衆国の人種的な多様性を鮮やかに、シンボリックに描いて見せている」(CNNのミュージカル担当記者)。
ドナルド・トランプ共和党大統領候補(事実上)のアジ演説の言わんとすることは、一言で表現すれば、「白人だけが繁栄を享受していた、あの古き良きアメリカに戻る」という願望にも似た共和党を支持してきた一部白人のホンネ。
その「平均像」は低所得、無教養、低学歴の白人ブルーカラー層のようだが、ミュージカル「ハミルトン」を制作する者、見て痺れる人は、どうやら「トランプ種族」とは180度異なる米国人ということになる。