心配は無用、食糧危機はやって来ない

日本農業、再構築への道 <2>

2010.10.27(Wed) 川島 博之
筆者プロフィール&コラム概要

 このように食糧生産技術は急速に進歩している。このことが、世界が食糧危機に陥らない最大の要因になっている。

21世紀に人口は「爆発」しない

 もう1つ、世界の食糧問題を考える上で重要な事実がある。それは世界の人口増加率が急速に低下していることである。

 世界人口は現在約70億人であるが、国連によれば2050年頃に92億人になり、それ以降はあまり増加しないと考えられている。

 現在、人口が大きく増えている地域はアフリカだけと言ってよい。その他の地域は、これまで人口の急増が喧伝されてきた南米においてさえも、増加率は急速に低下している。例えばブラジルであるが、現在、約2億人の人口は2040年頃に2億2000万人になり、その後は減少するとされる。

 増加率の減少はアジアで特に著しい。これは、アジアの経済が順調に発展していることの結果でもある。

 発展途上国にとって、経済発展とは農業国から工業国になることである。その過程で、農村に生まれた若者が都市に出て働くようになるが、それが始まると人口増加率が急速に減少し始める。これには、女性の高学歴化や晩婚化が関係していると言われる。このことはわが国が体験したことでもあり、容易に理解することができよう。

 その過程を、アジア諸国は時間を短縮しながら駆け抜けている。韓国の合計特殊出生率が日本より低くなったことはよく知られているが、インドの出生率でさえ急速に低下し始めている。もはや、人口が急増しているのは西アジアとアフリカだけと言ってよいが、その西アジアでも増加率は低下し始めた。

 今後、世界はわが国と同様に少子化高齢化に悩む時代に突入する。この先、世界人口が92億人程度でピークを迎えるなら、現在よりも22億人が増えるだけである。

 よって、21世紀を人口爆発の時代と見ることはできない。21世紀を人口爆発の時代と捉えることは、現在、わが国における各種の予測をミスリードしている。

 人口が爆発したのは20世紀であった。その20世紀においても、世界食糧危機が発生することはなかった。そう考えれば、科学技術が発達し、かつ人口増加が止まりつつある21世紀に食糧危機が発生しないことは自明であろう。

⇒ 「日本農業、再構築への道」のバックナンバー
(1)日本人がこれほど「食料自給率」に怯える理由

いかがでしたか?
JBpress をブックマークしましょう!
Twitterで @JBpress をフォローしましょう!
Facebookページ に「いいね」お願いします!

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る

東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。1953年生まれ。77年東京水産大学卒業、83年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得のうえ退学(工学博士)。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員などを経て、現職。主な著書に『農民国家 中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』など


農業の進む道

就業者の高齢化と減少、国際競争力の欠如など、様々な問題を抱える日本の農業。農業改革が遅々として進まないのはなぜか。農業を覆う問題の構造を明らかにし、あらゆる方面から日本の農業を活性化する方策を探る。