中国人民解放軍の「東風26型(DF-26)」対艦弾道ミサイル(出所:Wikimedia Commons

 アメリカ国防総省は毎年中国の軍事力に関する報告書を作成して連邦議会に提出している。その最新版である『Annual Report To Congress: Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2016』が今年も公開された。

 今年の『中国軍事レポート』は、これまで15年にわたって発行されてきた中で最も分量が多い。現在の装丁がスタートした2012年版は52ページであったが、本年版は156ページと大幅に分厚いレポートとなった。

 分量が3倍になっただけではない。15年前、このレポートの主たる関心は「中国による台湾侵攻能力」の分析であった。その後も、このテーマは毎年、主たる関心であり続けていた。しかし、今回のレポートでは、アメリカ軍当局の主たる関心が「中国による台湾侵攻能力」ではなく、「中国人民解放軍の地球規模での展開能力」に完全にシフトしたことが明示されている。

 毎年公開されている『中国軍事レポート』は、アメリカ国防総省による中国軍事力に関する公式見解である。そのため、米国内や中国はもとより、広く国際社会からも関心を持たれており、毎回様々な批判や提言などが噴出するのが常である。今回のレポートに対しても、様々な反応が見られる。中国当局はもちろん例年の通り厳しい非難を加えている。

 一方、米国のシンクタンクや米軍関係の対中戦略家などの間からは、様々な問題点を指摘する声が上がり始めている。それら問題提起の1つに、最新鋭の「東風26型(DF-26)」対艦弾道ミサイルならびにA2/AD戦力の脅威に関する言及が極めて不十分であるというものがある。

 この論点には筆者も同感であるだけでなく、日本にとっても重要な論点であるため、本コラムで紹介してみたい。