本当に読むに値する「おすすめ本」を紹介する書評サイト「HONZ」から選りすぐりの記事をお届けします。
日本で最初の楽市・楽座が開かれたとされる観音寺城(滋賀県)の城下町、石寺の史跡(資料写真、Wikipediaより)

(文:峰尾 健一)

マーケット進化論 経済が解き明かす日本の歴史』(日本評論社)は、律令制の時代から昭和初期にかけて、市場経済が形成され、洗練されていくプロセスが書かれた1冊だ。要所をたどりながら、1200年以上の時間を一気に駆け抜ける。まんべんなく触れるのは難しいので、時代を絞って紹介していきたい。

領国に縛られていた特殊な戦国時代

マーケット進化論 経済が解き明かす日本の歴史
作者:横山 和輝
出版社:日本評論社
発売日:2016-01-20

 著者によれば、戦国時代は日本経済史のなかでも特殊な局面であるという。全国レベルで資源配分を管理する存在もいなければ、全国一律の基準で市場経済を見守ることのできる存在もいない。この環境は、領国支配における様々な問題が生まれる要因となった。

 支配が及ぶのは領国内に限られるため、領国外の商工業者を誘致しなくては必要な物資を賄えない。だが、彼らはもともと同業者組合である座に属し、戦国大名の意向ではなく座のルール(座中法度)に則ってそれぞれビジネスを行う存在であった。そうした問題に対する解決策として、楽市楽座などの優遇策が実施される。本文中で引用されているグラフには、1550~1580年代における市場法の制定数が、それ以前の約300年と比べて突出して多いことが示されていた。