先日、重力波検出のビッグニュースが世界を驚かせましたが、実はそれと前後して、もう1つの重大宇宙ニュースがこの日本から発信されていました。研究者や天文・宇宙ファンのあいだでは、すでに大きな話題となっていましたが、一般的にはそれほど知られていないかもしれません。
2016年2月17日、種子島宇宙センターからH-IIA(「エイチツーエー」と読むと通に見られます)ロケット30号機が打ち上げられました。
H-IIAロケット30号機は、ペイロード(積荷)として搭載したX線天文衛星「ASTRO-H(アストロエイチ)」を、予定どおり高度574~575キロメートルの軌道に投入しました。
ASTRO-HはX線天文学の分野で世界最高の性能を持つ宇宙X線観測衛星です。これまでの100倍の感度を持ち、なんと80億光年先のブラックホールも観測することが可能です。今回、同時に3機の小型副衛星と8機の超小型衛星も軌道に投入しました。
科学衛星は打ち上げに成功してから名前がつけられる伝統があります。軌道に乗ったASTRO-Hは「ひとみ」と命名されました。関係者もうれしそうです。
しかし今後は観測装置のチェックと立ち上げ、較正、運用等々、やるべきことが山ほどあります。衛星チームはまだまだ気が抜けません。
ところで「X線天文衛星」とはいったい何をするものなのでしょう。そして「ひとみ」にはどんな成果が期待されているのでしょうか。
なぜ「X線」の「衛星」なのか
X線、別名レントゲン線は、100年以上前から、病巣や骨折部位などを撮影するのに使われています。空港では手荷物や郵便物をX線で透視します。そういう医療や産業における利用のほか、実は宇宙の謎を解き明かすのにも役立っています。
X線の正体はエネルギーの高い電磁波です。目に見える「可視光」も電磁波の仲間ですが、X線とはエネルギーが違います。X線の光子1個のエネルギーは可視光の光子1000個から100万個分ほどです。
これほどエネルギーが違うと、電磁波としての性質も全く違います。可視光ならば吸収されてしまう不透明な物体をX線がスカスカ通り抜けたり、あるいは可視光が通り抜ける透明な物体をX線が透過できなかったりします。