例えば、安全性や品質を示すためには日本のJIS規格と国際標準のRAMS規格があるように、橋梁の設計にも米国規格や欧州規格、そして日本規格がある。

 第9回で紹介したように、ヤンゴンとマンダレーの間には長短合わせて400橋以上の鉄道橋梁が架かっており、今回、どの規格に準拠して橋梁を架け替えるのか事前に詰めておく必要があった。

 この日、MR側から出された要望は、「全国的に最も馴染みのある」(MR)という米国規格。しかし、橋梁で米国規格を採用すれば、当然ながら他の土木作業でもすべて米国規準が採用されることになる。

 鉄道輸出を議論する際、日本と世界の規格の違いがクリティカルなポイントになることは、筆者自身もこれまで何度も耳にしてきたが、実際にこうして協議で議論される場面に立ち会ったのは初めてであったため、思わず身を硬くしながら、半ば息を止めてやり取りを聞いていた。

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 しかし、この日の土木チームとMRとの協議中、最も白熱した議論が交わされたのは、橋梁の「軸重」、つまり、どれぐらいまでの加重に耐えられる設計にすべきか、という議論だった。

 調査団側が17トンまで耐えられる設計(軸重17トン)を提案したのに対し、MR側の要求は、軸重20トン。

 MR側はその理由として、カンボジアやベトナム、タイ、マレーシアなどの周辺諸国が、2020年末を目標に軸重20トンで結ばれるべくそれぞれ改修を進めていることを挙げ、「ミャンマーとしてもこれを機に東南アジア諸国連合(ASEAN)の物流規格に合わせたい」と述べた。