作業の手を止めて下り列車の通過を待つミャンマー国鉄の職員と日本人技術者たち。金属音が周囲に響き、振動が足元から伝わってきた(著者撮影、以下同)

川を渡る線路の上で

 右足をここに乗せたら、左足はあそこに・・・。足を順番に出し、木製の枕木を1本ずつ渡っていく。

 そうそう、いい調子。そよそよと頬をなでる風が気持ちいい。「怖いと思うとますます怖くなるよ。平常心、平常心」と後ろから声を掛けてくれたのは、橋梁を担当するパシフィックコンサルタンツの藤本吉一さん。

 大丈夫。怖くなんてない。線路の上を歩いているだけなのだから。ただ、枕木と枕木の隙間にバラストと呼ばれる砂利が敷かれている代わりに川の流れが見えるだけ――。

 「!!!」。次の枕木へと右足を伸ばそうとした瞬間、どきっとした。間隔がかなり空いている。またいでいる間にバランスを崩しはしないだろうか。あれほど真下を見るなと言われていたにもかかわらず、一瞬の逡巡の間に足元を凝視してしまい、すうっと血の気が引いていく。

 足元から聞こえるせせらぎの音がやけに耳につく。あろうことか、川の上を3分の1ほど渡ったところで、歩き方を忘れてしまったかのように体が硬直してまったく足が出せなくなったのだ。