日本は四方の海に囲まれているから海洋国家、そういう議論がよくありますが、果たして、地政学とは地理的な変数だけで論じられるものでしょうか。
海洋国家論の父とされる、アルフレッド・セイヤー・マハン提督(1840~1914年)は、地理的変数だけではなく、文化的、社会的な変数も重視しています。そもそも四方が海というだけで海洋国家と言うならば、マダガスカルもニュージーランドもアイルランドも海洋国家でしょう。
実際、日本が海洋国家ではないということは、75年前に太平洋戦争の帰趨を正確に予想した米国の研究者も指摘している点ですし、海洋国家論の始祖であるマハンの定義に鑑みても正しいのです。
求められる新しい日本外交の自画像
我が国が海洋国家か否かを論じる前に、その問題を考えることがなぜ重要なのかについて説明したいと存じます。
そもそも、日本外交の課題は普遍的な外交思想、言うなれば自画像を描けないことです。外交史家でハーバード大学名誉教授の入江昭先生によれば、わずかな「東と西」という概念以外には普遍的な外交思想を持てなかった近代日本外交は、実利論に基づく過度な現実主義で埋め尽くされ、過剰な不安感を自らに醸し出し、自縄自縛に陥ったことで第2次大戦の敗北に至ったといいます。