絶滅危機のウナギは庶民の食卓に戻るのか

ニホンウナギの完全養殖に希望の光

2015.06.12(Fri) 佐藤 成美
筆者プロフィール&コラム概要

 ウナギは身近な魚であるが、産卵形態は分かっておらず、人工飼育では、全く成熟しなかった。そこで、ウナギにサケなどのホルモンを投与して、人為的に成熟させる方法が開発された。これで親ウナギの催熟技術が向上し、仔魚を得ることができるようになったのだ。しかし、その仔魚を飼育する技術の開発は困難を極めた。その最大の要因は仔魚の餌が分からなかったことだ。

 研究者は手当たり次第、餌を探した。水産総合研究センターウナギ統合プロジェクトチーム(神奈川県・みなとみらい)の田中秀樹氏らがアブラツノザメの卵が餌として有効であることを見つけたことがターニングポイントとなり、2002年には、仔魚をシラスウナギにまで変態させることに成功。2010年には、長年の努力が実を結び、ついに完全養殖が実現した。とはいえ、これは実験室レベル。次の目標は、シラスウナギの量産化である。

 これまでは、10リットル のボール型の水槽に仔魚を飼育し、1日に5回、アブラツノザメの卵にビタミンなどを加え、ペースト状にした餌を与えていた。餌を与えると、水が汚れるので、毎日仔魚をサイホンやピペットで新しい水槽に移しかえる。この方法は、大変な労力を伴う上に、得られるシラスウナギ1つの水槽に10尾程度だ。

 「飼育システムを効率化し、シラスウナギを1万尾規模で安定生産できる飼育方法を開発しています」と同センター主任研究員の増田賢嗣氏は話す。水槽の形から、給餌方法や水槽の洗浄方法など各プロセスを詳細に検討し、地道な工夫を重ねることで、少しずつ飼育規模を大型化させた。その結果、2014年には1 トンの大型水槽での飼育が可能になった。この水槽で2万8000尾の仔魚を飼育し、441尾をシラスウナギにまで変態させることができ、量産化への展望が大きく開けた。

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サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)、農学博士。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『「おいしさ」の科学』(講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。


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