ウナギの養殖場での抗生物質の使用は「持続可能」ではないため、タタキでは使わない。銀ダラをウナギ風に仕立てている

 サンフランシスコの「寿司屋・タタキ」では、握りの定番中の定番であるクロマグロを扱っていない。代わりのネタは竿釣による北太平洋産のビンナガマグロだ。現地の人に特に人気の高いウナギの蒲焼は、銀ダラを使って「ウナギもどき」に仕立てている。

 ウニには「素潜り漁による野生のウニ 米国」、アマエビには「トラップ漁によるボタンエビ ブリティッシュコロンビア州」など、ネタには漁法と産地が明記されている。

底引き網の魚は使わない「こだわりの」寿司

 「タタキ」のメニューのトップには、こんな但し書きがある。「当店では、はえ縄、底引き網など、大量の混獲(鳥、サメ、稚魚など)を伴う漁法による魚は、使用を控えております。また養殖魚については、海から隔離された養殖場のものを使用しています。この養殖法は、魚の生息数とその環境を守る一助となります」

世界初の持続可能寿司レストラン「タタキ」

 「タタキ」スタッフのキャッソン・トレナーさんは、「僕らの知る限り、タタキは世界初の持続可能寿司レストランです」と誇らし気だ。

 キャッソンさんの肩書きは「サステナビリティ・グル」。サステナビリティは持続可能性、グルはサンスクリット語で指導者の意味で、タタキをはじめとするレストランの「持続可能化コンサルタントとして」、仕入れの相談、メニュー作り、PR、顧客への対応などを手掛ける。

 キャッソンさんはワシントン州沿岸の小さな町で育った。子どもの頃は家の近くの海岸でハマグリを掘って遊んだりしていたが、10代になる頃には海岸は汚れきっていたという。大学院で国際環境政策学を学んだ後、世界を旅して歩いた。

 なんとか海を守りたい、海洋資源を後世に残したいとの思いから、2009年に『Sustainable Sushi: A Guide to Saving the Oceans One Bite at a Time(持続可能な寿司:一口ずつ海を救うためのガイド)』(North Atlantic Books)を出版した。

寿司文化を守るために、海に負荷はかけない

 キャッソンさんは、子どもの頃に初めて寿司を食べて以来、大の寿司ファンだという。「海に負荷を掛けるということは、長い目では、その料理、あるいは産業自体の衰退につながってしまいます。私は寿司自体を変えたいわけでも、否定するわけでもありません。むしろ、寿司という文化と芸術を、将来の世代にも楽しんでもらい、恒久的なものにしたいのです」と語る。