中国は、富国強軍をスローガンとして世界第2位の経済大国となり、軍事的にも米国に次ぐ世界第2位の軍事大国となった。
中国の国防費は、過去26年間で約40倍、過去10年間で4倍に急増し、その強大な軍事力を背景として、東シナ海や南シナ海において強圧的に振る舞い、日本をはじめとする米国の同盟国や友好国にとって重大な脅威となっている。
中国は当面、アジア・太平洋地域における米国の関与・影響力を排除し同地域の覇権を握ることを目指し、最終的には米国をも凌駕する国家を建設し、習近平国家主席が掲げる「中華民族の偉大なる復興」を実現しようとしているのであろう。
日本の防衛およびアジア太平洋地域における米軍の作戦を考えた場合、中国の人民解放軍(PLA: People's Liberation Army、以下PLAと記述する)の接近阻止/領域拒否(A2/AD: Anti-Access/ Area Denial、以下A2/ADと記述する)戦略にいかに対処するかが中心的テーマとなる。
米国では海軍や空軍を中心としてエア・シー・バトル(ASB: Air - Sea Battle、以下ASBと記述する)やその対案としてオフショア・コントロール(注1)(OC: Offshore Control、以下OCと記述する)などが提案されている。
一方、我が国においては、急速に軍事力を増強する中国を念頭に、日本防衛のために様々な試みがなされてきたが、米国の戦略と密接に調整された包括的な防衛戦略が発表されていない。
本稿においては中国に対する抑止と対処の基本的な構想を紹介し、最終的にはPLAのA2/AD戦略に対する日米共同の抑止・対処構想としてのASLB(Air- Sea- Land Battle)構想を提言する。
ASBは、米海軍および米空軍を中心として提案されている中国のA2/ADへの抑止および対処の構想であるが、陸上戦力(Land Forces、陸上自衛隊、米陸軍、海兵隊など)の関与が欠落している。
南西諸島の防衛を検討してきた陸上自衛隊の防衛態勢の構築の過程で明らかになったことは、第1列島線の重要な一部を構成する南西諸島の防衛が、米軍のASBの成功にとって極めて重要な条件となる事実である。