2014年も残り少なくなってきたが、この1年間の世界の動きを安全保障の観点特にウクライナ紛争が世界全体に与えた影響を中心として考察してみたい。

ロシア・ルーブル急落、過去最安値記録 試される大統領の手腕

ロシア・モスクワ中心部で、外貨両替所の為替レート電光掲示板の前を歩く女性(2014年12月12日)〔AFPBB News

 国連が発表したデータ(12月7日時点)によると、今年4月から始まったウクライナ東部での紛争で4634人が死亡し、1万243人が負傷した。死者の中には7月に親ロシア派の武装勢力に撃墜されたと思われるマレーシア航空機の乗客乗員も含まれている。

 これは大変大きな数字で、いかに大きな損害がウクライナ紛争によりもたらされたかが分かる。この損害の責任の大半はロシア、特にウラジーミル・プーチン大統領にある。プーチン氏の命令により実施されたクリミアのロシアへの編入後の3月18日に実施した演説の瞬間が彼の栄光の絶頂だったのであろう。

 その後のウクライナ東部へのロシア軍の侵攻に伴う欧州・米国・日本などの対ロシア経済制裁と原油価格の急激な下落が今後長く続くと、ロシアの財政破綻の可能性もあると言われている。

 プーチン氏の栄光は半年しか続かなかったのである。彼は今後、自らが命令したロシア軍によるウクライナ侵略の報いを受けることになる。

欧州を震撼させたロシア軍によるウクライナ侵攻

 NATO(北大西洋条約機構)加盟国にとってロシアによるクリミア編入とウクライナ東部への軍事侵攻は衝撃的であった。冷戦終結以降で最大の衝撃的出来事であると指摘するNATO関係者が多い。

 1991年のソ連崩壊以降、ロシアとの戦争を真剣に想定してこなかったNATOはその軍事費を逐次削減し、その能力を低下させてきた。そのために、今回のロシア軍の不法な行動にもなす術がなかったのである。

 ミハイル・ゴルバチョフ元ソ連書記長は、ウクライナ紛争後の欧州情勢について「新たな冷戦が始まった」と述べたが、その表現が適切であるかどうかは別として、直感的にそれに近い思いを抱く人は多いと思う。

 クリミア編入には歴史的な背景があり、ロシア人にとってクリミアはロシア領だと信じている者が多いし、クリミアで生活しているロシア人も多かった。そして、ウクライナへクリミアを割譲したのはウクライナ出身のニキータ・フルシチョフ書記長(当時)であった。ロシア民族からウクライナ民族への「同胞のプレゼント」として送られたのだ。

 当時の彼にはまさかソビエト連邦が崩壊し、ロシアとウクライナに国が分かれるとは予想だにしなかったであろう。