「日本車は本当に大丈夫か?」「なぜホンダは事故を8月の時点で知っていて今まで何もしなかったのか?」――。
ホンダのリコールがマレーシアの人々に衝撃を与えた理由
11月14日、クアラルンプール国際空港に降り立った筆者に、マレーシア人のタクシー運転手がこんな質問を矢継ぎ早にぶつけてきた。正直、予測はしていたものの、ここまで危機感を持たれているとは想像していなかった。
というのは前日の13日、日本でショッキングなニュースが流れ、世界に打電されていたからだ。
その内容は、米国で深刻な社会問題に発展していたタカタ製のインフレーターを搭載したエアバッグ(運転席側)の欠陥で、ホンダが今度は小型セダン「シティ」など約17万台をマレーシア等のアジア太平洋地域を含め、世界中でリコール(回収・無償修理)すると発表したというもの。
対象車はシティのほか、乗用車「フィットアリア」、軽自動車「ザッツ」など計5車種。地域別では日本が7万797台、欧州3万772台、アジア・太平洋4万1340台、中国2万1917台など。そして、その発端となったのが7月末にマレーシアでエアバッグ作動時に飛散した金属片で運転手が死亡した事故だとし、それがリコールに踏み切った要因だと発表。
タカタ製のエアバッグ破裂による死亡事故としては米国以外で初のケースとなり、マレーシアはもとより、日本車の成長市場と期待される東南アジア諸国では、ホンダが8月の時点で同事故を把握していたとした上、「エアバッグが『命を守る』どころか、『命を奪う』凶器と化した」「日本の安全神話に陰り」などと、ショッキングに報道された。
もともと、ホンダは2004年に初めてタカタ製インフレ―ターの異常破裂を把握し、米国では2008年末に2001年型の「シビック」と「アコード」、計4200台をリコールしていた。
しかし、2009年5月、ホンダアコードを運転していた運転者が事故に遭遇、死亡するという痛ましい事故が発生。今は亡きアシュリー・パーハムさんは、オクラホマ州の高校を卒業したばかりで当時18歳。チアリーダーを務め、教師になることを夢見ていた活発な学生だったという。その日は弟を迎えに行くため運転中、別の車と衝突、死亡した。
警察発表によると、エアバッグの膨張で飛散した金属片が頸動脈を切断、出血多量で死に至った。しかし、ICU(救急救命治療室)で治療にあたった医師は、当初、金属片を胸部と首の負傷箇所から摘出するまで、銃撃されたのではないかと思っていたという。それほど体への衝撃が大きかった。