国連のゼイド・ラアド・アル・フセイン人権高等弁務官は、10月16日の記者会見において、エボラ出血熱の拡散とイスラム国の台頭について次のように指摘した。
「エボラとイスラム国という双子の疫病は、静かに醸成され、それらが存在することは理解していたが、そのひどい潜在性を読み誤った世界の怠慢に助けられ、2014年後半に爆発的に世界の認知を得ることとなった」
イスラム過激派の危険を熟知するヨルダンの王子でもあるゼイド氏が指摘したように、イスラム国はエボラ出血熱と確かに似ている。なぜなら、その2つの疫病はともに、私たちの眼前で静かに、だが着実に国民国家の壁を乗り越え、世界に拡散していった疫病なのだから。確かにこの点で、私たちの認識力の弱さや、見通しの甘さこそが責められねばならないだろう。
さらに不穏なことには、イスラム国の関係者の中には、実際に生物化学兵器を活用することを密やかに企んでいる輩までが特定されつつある。スペイン内務省のフランシスコ・マルティネス安全保障担当副大臣によるスペイン議会への報告によれば、本年夏以降、イスラム国の支持者がインターネット上のチャットにおいて、米国に対してエボラ出血熱を生物兵器として使用することに言及していることすら明らかにされている。
そして、この12月3日にはブリュッセルにおいて、60カ国以上の参加を得て、ジョン・ケリー米国務長官が議長を務める反「イスラム国」閣僚級会合が開催されることになっている。もはやイスラム国という疫病は、遠い中東での出来事にととまらず、私たちの足元を脅かしつつあることをここで再認識する必要があろう。
そこで本稿では、イスラム国による暴力が赤裸々になっている今こそ、過激なイスラム主義をその根底から揺るがすために、私たちにとって必要不可欠な1つの視座を提供したい。