御嶽山の突然の噴火や、米国が主導する有志連合によるイスラム国への空爆など、国内外の情勢が目まぐるしく変化しているため、3週間前の9月18日に実施されたスコットランドの住民投票が日本で話題にのぼることはほとんどなくなった。

 日本をはじめ世界が固唾を飲んで見守った投票結果は、反対が55%と賛成の45%を上回った。英国分裂の危機は瀬戸際で回避されたが、この運動が提起した本質的な問題を改めて考えてみたい。

独立を求めたのは民族意識からではなかった

 日本では「独立運動はアイデンティティ(民族意識)の高まりによるもの」との論評が多かったが、スコットランド史の専門家である久保山尚氏は「独立運動は民族意識やアイデンティティに依拠したものではない」と断言する。

 独立運動を主導するスコットランド国民党(SNP)は、手厚い社会福祉・反核兵器・再生可能エネルギー等を推進する中道左派寄りの政党であり、排他的民族要素が全くないからだ。

 スコットランド人でなくてもSNPの党員になることは可能であり、草の根の運動員の中にイングランド人や南アジア系の人の姿が見かけられた。SNP議員の中にはイングランド人をはじめとする「非スコットランド人」も存在する。独立賛成派の集会などでも「私はナショナリストではないし、スコットランド人であることに誇りを持っているわけでもない。でも私は独立に賛成する」との発言を切り出すことが、すでに決まり文句のようになっていたという。

格差、貧困、不平等に憤慨する声

 それではなぜ人々は独立を主張したのか。

 1980年代のサッチャー保守党政権の新自由主義政策により、ロンドンと南東部地域では金融業が栄える一方、スコットランドなど北部地域では製造業や鉱業が衰退し、南北格差が広がった。このため、スコットランド地域の人々は、経済・社会政策の面で英国議会とは違った道を選択し始め、その差は年々拡大した。英国全体に蔓延する貧困と不平等に対する憤慨の声も高まっていた。