秋が旬の「鮭」をテーマに、日本人の関わり方を見ている。
前篇では、重要な食資源だった鮭を増やすために、日本人が「種川法」や「人工孵化」などの技術を導入した歩みを追った。その歩みは、資源確保を自然なものから、人手によるものに変えていくものでもあった。人工孵化・放流により鮭の資源量を確保することが、今の日本では常識となっている。
だが、冷静に考えてみると、人手を介して孵化させ放流する状況が“あるべき姿”と言えるのかどうか。人は自然と人工の調和をどう図っていくべきか。
後篇では、サケ科魚類の研究を行っている日本大学生物資源科学部助教の牧口祐也氏を訪ねる。牧口氏は、データロガーという計測機器を使った「バイオロギング」などの手法で、サケの遡上や繁殖などに関する研究を進めている。サケについてなにが分かってきたのだろうか。そして、人の関わり方はどうあるべきなのか。
(注:本記事では研究対象を「サケ」、食材を「鮭」と表記します)
サケの体に計測装置を取り付けて行動を観測
動物の生態をつぶさに観察するには、動物の行動を追い続ければよい。昆虫などの小動物にはそれができるが、水中を長い距離移動するような動物には難しい。そこで活用されているのが、バイオロギングという手法だ。
バイオロギングとは、小型計測装置を調べたい動物に取り付け、その行動を記録することである。動物の身になって観測するという発想は画期的だ。
計測装置はデータロガーと呼ばれる。なにを調べるかによって、速度変化や位置が分かる加速度計、筋肉の活動の仕方が分かる筋電計、心臓の動きが分かる心電計などの各種ロガーを動物に取り付ける。
バイオロギングによる研究が始まった1970年頃は装置が大きく、対象はアザラシなどの海獣に限られていた。だが、装置の小型化が進み、サケを含む魚類なども観察対象になってきた。
牧口氏は北海道大学で、地元の水産資源に欠かせないサケの研究を志した。母なる川に帰ってくる習性にも魅力を感じたという。サケの生態観測の一手段として活用した手段がバイオロギングだった。「小指ほどの大きさになり、ようやく大型魚のサケやマグロにも装着できるようになった時期でした」