経営力がまぶしい日本の市町村50選(30)

 東京都練馬区(人口71万4536人、平成26年8月現在)は、東京23区の中では最も新しく誕生した区で、1947年に板橋区の一部が分離して発足した。

緑に恵まれ、漫画家に愛された住宅街

 手塚治虫をはじめ松本零士、赤塚不二夫、ちばてつや、藤子不二雄、弘兼憲史など多くの漫画家も永住、または一時的に居住したことがあり、鉄腕アトムが生まれた日本アニメ発祥の地で、日本一のアニメ企業集積地でもある。

練馬区の立野公園。区内では珍しく犬を連れての入園を認めている(ウィキペディアより)

 漫画家にとっては出版社の多いエリアへの交通の便がよかったことや、落ち着いて制作に専念できる環境であったことも魅力的だったのではなかろうか。

 というのも、練馬区は23区内の農地の約4割を占める農業の盛んな区であり、緑の多い閑静な住宅街である。販売農家443戸のうち専業農家が87戸と約20%を占め、都内では非常に高い割合であることも特徴である。

 ゆえに都市農地の保全には早くから力を入れており、1973(昭和48)年度にはすでに区民農園が作られ、現在でも都内の区民農園のうち約15%を占めナンバーワンである。その後、市民農園、農業体験農園と多様な形態の農園が整備された。

 特に農業体験農園は従来の区民農園とは異なり、農家が自分で経営、農業指導を行うもので、都市農業ならではの機能を最大限に発揮した先進的な農業経営として、2009(平成21)年には日本農業賞(集団組織の部)大賞を受賞するなど、全国的な注目を集めている農園である。

食、健康、環境・・・都市農園のさまざまな“効能”

 さて、都市農園の機能は、以前に富田林市の実例でも紹介したが、練馬区に当てはめると以下のように上手に機能していることがわかる。

(1)農産物供給機能

 かつては練馬大根の大生産地として全国に知られた練馬区は、今でも都内随一のキャベツ生産量を誇るなど、比較的大きな規模で農業・農地が維持されてきた。いまだに農家の直売所や共同直売所などが身近にあるエリアが区内の47%に達しており、とれたての新鮮な野菜が手に入りやすい環境である。

(2)レクリエーション・コミュニティー機能

 都市の農地は、収穫体験や農作業、土とのふれあいを通じて心と身体の健康を回復する身近なレクリエーションの場であり、利用者や農家との交流を通じたコミュニティー形成の場でもある。後述するが、練馬区では区民農園や市民農園、福祉農園、農業体験農園、観光農園等の様々な場が用意されている。