子どもの頃、私はガールスカウトに入っていて、夏になると毎年キャンプに行っていた。キャンプに行くと、まずやるのは穴を掘っただけの原始的な竈(かまど)を作ることだった。そして、朝、昼、晩の三食のご飯を作ることに大半の時間が費やされた。

 いろいろあった野外料理のなかで、私が今でもよく覚えているのは「カンガルートースト」と呼ばれる朝食用のホットサンドだ。

 厚切りの食パンの一辺にナイフを横から挿し込んで袋状に切る。そこにハムと溶けるチーズを入れ、アルミホイルで包む。さらにそれを牛乳パックなどの紙パックに押し込み、そのまま火に投入する。

 紙パックが燃え尽きたら出来上がり。煤けたアルミホイルをむくと、ほどよく焼き色のついた香ばしいパンから、チーズがとろりとはみ出す(もっとも炎の強さによって、ときには丸焦げになってしまうこともあったのだが)。

 初めて食べたときは、炎の中に突っ込むだけで、おいしいホットサンドが簡単に出来上がることに感動を覚えた。それまで食パンを「焼く(トーストする)」といえば、トースターに入れてダイヤルを回したことしかなかったからだ。ジリジリいうトースターの電熱線と、ゴウゴウと燃え盛る焚き火の炎。いまにして思えば、ゴールは同じでも、調理の仕方に大きなギャップがあることに驚いていたんだと思う。

 料理の歴史に関する本を読むと、必ずと言っていいほど、冒頭に「調理の歴史は火の利用から始まった」といったようなことが書かれている。

 人類の火の利用は、これまでは確実に79万年前まで遡るとされていた。イスラエルのゲシャー・ベノット・ヤーコブ遺跡で見つかった焼けた種子や木片、石材などがその証拠だ。だが2012年には、南アフリカのワンダーウェーク洞窟で100万年前頃のものと推定される植物の灰や焼かれた骨が発見され、議論を呼んでいる。

 いつから人類が火を使いだしたかはさておき、火を使った最も原始的な調理法は「直火焼き」だったことに、いまのところ異論はない。火さえあれば、そこにかざすだけで食材が焼けるからだ。

 そうして「直火焼き」から始まった「焼く」という調理法を、人類はこれまでに様々な道具を発明して多様化させてきた。ガスコンロを使ってフライパンで目玉焼きを焼き、グリルでサンマを焼き、オーブンでグラタンを焼く。